小学生の頃、通学路の途中の家に「ロン」という黒白の犬がいた。ちょっと大きめの犬。青い犬小屋に住んでいた。毎朝「ロンおはよう!」となでて、帰りには「ロン!元気だった?」と、めちゃくちゃになでる。そんな毎日。
ロンとの時間は、ぼくの日常だった。自分が飼っているような気分だった。
5年生のある日、
「ロンは天国に行きました。かわいがってくれた皆さんありがとう」
という紙が小屋に貼ってあった。死というものに初めて出会った瞬間。
なんと受け取ってよいかわからない出来事。
ロンのいない小屋は、小学卒業まで置かれていた。毎朝前を通るたびにロンのことを想った。
中1になる時に北海道から三重に引っ越した。
引っ越してすぐ。近くのジャスコ(今のイオンですね)に行くと、ペットショップの前のゲージに子犬が6匹。
「1匹1000円」という雑種の中に黒白の子犬がいた。
「ロンだ」。そう思ったぼくは両親に懇願し、半ば強引に連れて帰った。生まれ変わりと信じたぼくは「ロン」と名付け、一緒に暮らし始めた。
青い犬小屋を父親と一緒につくった。
山奥に住んでいたので、散歩は山の中。
春に散歩に行くと、家に着く頃には、ビニール袋の中は、わらび、タラの芽、ぜんまいでいっぱいだった。
ヘビに出会って2人で格闘したこともある。
夜には中学の友だちと、ロンと蛍を見にいった。
中高と深刻な反抗期まっただ中だったぼくにとって、ロンは日常の中の心の支えだった。かなりしんどい状況だったぼくにとって、何も言わずに好意を寄せてくれるロンにぼくは救われていた。親とは毎日のように口論。ひどい状態で兄弟にもとても迷惑をかけた。ロンにだけは、優しい言葉をかけることができた。
高校の時には、ロンの散歩中に知り合った人と、初めて付き合うことにもなった。毎日毎日1年半、ロンの前でおしゃべりした。
ぼくが東京の大学に行くとまもなくロンの訃報を聞いた。
ロンのことが気になっていたぼくにとって、どう受け止めていいかわからなかった。
大学の寮のまわりを散歩しながら、ほっとして泣いた。
ぼくにとってロンはペット以上の存在だった。
* * *
あれ?
気づいたら、先週から我が家に黒白の犬が!
ようこそ。
名前はロンではなく、よつばです。
小5娘がつけました。
彼女にとってどんな存在になるだろうか。
いやー、よつばかわいいわー。
毎日さっさと家に帰りたい。明日の朝6時からお散歩デビューです。