今から15年前ぐらい。
ぼくは小学校で研究主任をしていました。
研究テーマは、「月曜日に行きたくなる職員室」。職員室を学び合う場、学び続ける組織にすることに関心が高かった頃だったので、校内研究・研修を通じて、そんな職員室づくりにチャレンジしたのでした。
15年前では斬新なテーマだ!
外部の力も借りながらの試行錯誤の日々。研究主任や推進委員がひっぱるのではなくて、「みんなでつくる」を徹底しました。ひとりひとりの「やりたいこと」から出発し、それをつなぎ合わせていきました。職員室から学校が変わる可能性を感じた3年間。
もちろんなかなかうまくいかなかったし、あっちへ行ったりこっちへ行ったりの大変だったし、正直たくさん悔し泣きもしたし、諦めそうにもなった。
しかし「月曜日に来たくなる職員室」をテーマに進んだ組織開発の3年間は、「なんだ、公立の学校だって変わるじゃん!」という、今思えば当たり前の確信を自分の根っこに据えることのできる体験になりました。
当時の職員は例えばこんな振り返りを書いてくれていました。
研修の進め方についての固定概念が変化した。研究推進委員や研究主任がレールをひいておいて、そのレールに職員を乗せて進めていく研修から、自分自身、一人ひとりが他の職員と協力してレールをひいていく研修へと変化できた。今ではそのやり方が当たり前だと思うようになった。一人でできること考えることは限られたもので、推進委員とか主任の知恵は狭い。それを他の人との協同で、全員でアイデアを出し合うと、できることは無限大に広がっていくことを実感できた。職員室で変わったことは、やらされるのではなく自分達の意志でやっているという雰囲気になってきた。日々の実践が、日常的に全校でおこなわれている。一人ひとりが建設的にものを言ったり、考えたりするようになった。本校の研修のスタイルというのが確立するまでに3年かかった。今は当たり前のようにやっているけど、3年かかってようやく確立した。他のテーマになっても、この堀兼のスタイルでやっていけるんじゃないか。
人には力がある。それは子どもも大人も同じ。子どもの学習どうこうの前に、先ずは職員室の学び方の変革からだという実感をこの経験から得ました。今も変わらないぼくの軸になっています。
その学校を異動するとき、先輩に、これはこの学校だからできたんじゃないと思う。どこでもできるはず。だから岩瀬にはもう一度どこかで再現してほしい、と言われたのを思い出します。
と、ここまでは過去の物語。
その後、ぼくは大学に転身し、教員養成の道に進みます。
そこで出会った、現職院生の村上敏恵さん。
彼女が現場に戻ったのを機に、公立小学校での「職員室が変わる校内研究・研修」に一緒にチャレンジすることになったのです。
彼女は研究主任。ぼくは伴走者。
3年間の歩みで、その学校は、ぼくが15年前に経験したことの遥か先へと進みました。職員室が学び続ける組織に変化したのです。
人には力がある。自分たちで自分たちの組織を変えていく力がある。それはぼくが思っていた以上だったようです。ぼくが経験したことの遥か先の情景がこの学校で出現しました。
その歩みを赤裸々に綴った、新しい本が出ます。
予約が始まりました。
学校版組織開発の記録です。
帯はなんと中原淳さん。
巻頭言は、小金井市教育長の大熊さんが書いてくださいました。
類書のない価値の高い本になったと自画自賛したいです。
校内研修をなんとかしたい、組織づくりに悩んでいる、学校改革をしたい、職員室を学び合う関係に変えたい、自身のこれまでの歩みを振り返りたい、組織づくりの伴走者をしてみたい、そんなニーズに応えられるんじゃないかな。そんなチャレンジしている方々の振り返りに寄り添い、歩んでいる背中をそっと押せる本になったと思います。
研究主任としての村上さんの3年間の奮闘、三小のみなさんの3年間の試行錯誤、大学教員としてのぼくの3年間の伴走の記録。そこから導き出される実践知の記録。
従来の校内研究・研修本や、研究結果をまとめた本は、綺麗なところばかり、良いところばかりを綴ったものが多かったように思います。
しかしこの本は、葛藤や苦労、悩みも含めたナラティブ(物語)が描かれています。なにより村上さんの自己開示が詰まっています。本人が「赤裸々すぎて恥ずかしい」とおっしゃるほど誠実な本です。職場の人がゲラを読んで泣いてくれたと聞きました。本当、が描かれていたからこそだと思います。
だからこそ、そのプロセスを追体験し、「自分ならどうするだろうか」「どんな一歩を踏み出そうか」と問いを手元に引き寄せることができるはずです。
この本は村上さんの本です。ぼくはこの本ではささやかな伴走者です。
ぜひぜひ手に取ってください。公教育の可能性と未来が描かれています。
厚い!でも読みやすくて最後まで一気に行けるはず!
15年来の先輩との約束をようやく果たすことができました。しかもぼくはささやかな伴走者に過ぎず、その学校の先生方自身がが自分たちで「学び続ける組織」をつくったことがなにより嬉しい。