いわせんの仕事部屋

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久々に新刊が出ます。

あっという間に年も暮れ。

ばたばたばたばたと過ごしております。バタバタバタバタ。

さて、久々に新刊が出ます。

インクルーシブ教育を通常学級で実践するってどういうこと? (インクルーシブ発想の教育シリーズ)

インクルーシブ教育を通常学級で実践するってどういうこと? (インクルーシブ発想の教育シリーズ)

 

 尊敬する研究者、青山新吾さんとの共著です。

ぼくの公立校時代の実践を、インクルーシブ発想の視点から対話を通して読み解いてくださいました。

主にこの本に書かれた実践をベースに読み解いていったのが今回でる本です。

みんなのきょうしつ

みんなのきょうしつ

 

なんと西原理恵子さんが表紙を書いてくださった本。

日々の実践の振り返りをベースにした本です。 

個人的にこの本、とても好きです。本屋であまり見かけず(涙)、でもぜひよんでいただきたいなあと思っています。

2冊セットで1冊、です。

 

iwasen.hatenablog.com

 

さて、新刊の目次です。

 

★目次★
第1章 インクルーシブ発想とは~岩瀬直樹実践が問いかけるもの~(青山新吾)
インクルーシブ発想とは

つなぐ、つながることの弱さ

「集団の中の個」という考え方

関係性と合理的配慮

岩瀬実践は私たちに何を問うているのか

 

岩瀬直樹実践の概要
教室リフォームプロジェクト/プロジェクトアドベンチャー/会社活動/作家の時間/振り返りジャーナル/ブッククラブ/単元内自由進度学習/自立チャレンジタイム

 

第2章 インクルーシブ教育をどう実践すればいいのか(対談)青山新吾×岩瀬直樹
4月の最初に「教室リフォームプロジェクト」を行う理由
「作家の時間」で子どもたちをみる、「PA」で人間関係を混ぜる
コンテンツだけ取り入れても意味がない
学校文化ではICFが不問にされている?
授業は同じように進むというのはフィクション
「表向きのストーリー」と「秘密のストーリー」をリンクさせる
教師の仕事は、徹底した個への関心がないと成立しない
先生は、一緒に生活する人
当事者である子どもと一緒に授業をつくる
子ども同士の関係性と合理的配慮
困っていることを表に出していい文化をつくる難しさ
関係性の中だけでやろうとすることの危うさ
トップダウンから協同探究、そしてパートナーへ
教室に畳スペースをつくる理由
学習を個別化すると、個人がみえてくる
学びのコントローラーは子どもたちの手にある!
「自立チャレンジタイム」の時数はどうやって取っていたのか
専門性があるほうが協同的な学びの質も高まる
学校教育の未来
どんな個にもフォーカスが当たる社会に

 

第3章 インクルーシブ教育の実践って?(岩瀬直樹)
方法の前提になること(対談を経て)
方法の目的化
子どもをどんな存在としてみるか
他者と共に伸びていく
学級を安心安全に、のその先に
インクルーシブ教育の実践って?

 発刊まで少し時間がありますが、『みんなのきょうしつ』を読んでいただき、「その背景にはどんな考えや思い、アプローチがあったのだろう」と推測していただいてから本書を読んでいただくと、より立体的に立ちあがってくるものがあるのではないでしょうか。

対談でのぼくの語りがやや、いやかなり冗長ですが…青山さんがなんとか整理してくださいました。岩瀬実践を3つのキーワードでまとめてくださった第1章、特にお薦めの章です。

 

年明けには、井庭さんとの対談が収録された本が出ます。

『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』(井庭崇 編著, 鈴木寛, 岩瀬直樹, 今井むつみ, 市川力) 慶應義塾大学出版会

いやあ、このメンバー気後れするわ…

 

さらには、『今すぐできる学校改革の提案(仮)』も3月までには出る予定。

さあ、年末はゲラチェックだー。

ではちょっと早い昼休みを終え、仕事に戻ります!

 

 

つけたし

なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる

なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる

 

今日だけキンドル版のみ999円。

これは安い。ポチっと。

 

小金井三小で話したこと③完結編。

勢いのあるうちにラストまで!

研究発表では持ち時間が25分だったので、猛ダッシュの駆け足でした。

 

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⑤みんなの研修をみんなでつくる

最後は、これ。

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2年間のチャレンジは何も一直線に進んできたわけではありません。

様々な葛藤がたくさんあったと聞いています。

葛藤や混乱が生まれたとき、私たちは、それにどう向き合えばよいのでしょうか?

そのときに、研究主任&副主任がしたこと。

それは、「困っている」という吐露でした。

なぜこのような研修にしたかったのか、今何に困り、何に悩んでいるのか。。研究主任、副主任のナラティブが語られました。ナラティブは他者の感情や思いに届きました。そこから教職員の対話が始まったのです。今モヤモヤしていることを出し合おう、ではこれからどうしていけばよいか考えよう、と進んでいきました。


困ったら困ったと言えること(援助希求)。場を信じること。人の力を信じること。職員室も教室も同じ。当事者の力を信じること、それを行動に移すことこそが、「みんなの研修をみんなでつくる」のです。

そして、ナラティブには力がある。

ぼくも研修の中で自身のたくさんのナラティブを語ってきました。その話は改めて。

 

ぼくは今、夜間で、東京学芸大学教職大学院の授業を1コマ担当しているのですが、そこに研修主任の村上さんにお願いして、校内研究のプロセスを話していただく時間を設けました。研究主任の村上さんにお願いしたところ「せっかくなので先生方にも声かけてみますね」とのこと。

そうしたら当日なんと20名の先生方が!!勤務時間外に20名の先生方が、大学院の授業の講師としてきてくださったのです。ああ、すごい職員室だあ…と感動しました。

その授業では、先ずはじめに、先生方が対話サークルを見せてくださいました。

その時の研究主任の言葉です。

 

さっき、○○さんが、「子どもってすごいって思った」って言ってたんだけど、私は研究主任の立場になって、一番感じたのは、先生達の力ってすごいなって一番感じて、すごいやっぱり悩んだんですよ,正直いっぱい。
悩んだときに、これどうしたらいいって投げかけたときに返ってくるパワーがすごかった。
それがすごいありがたかったし、今まで場を信じるとか、人の力を信じるって,そういう言葉は聞いていたけど、実際に自分で、本当に人って力があるんだなとか、職員室って場には力があるんだなって、感じたのがこの研究だったなって思いました。

 

このあり方が「みんなでつくる」につながっていったのだと思います。

中村和彦さんによると、組織開発には大切な4つの価値観があるのだそうです。

入門 組織開発 活き活きと働ける職場をつくる (光文社新書)

入門 組織開発 活き活きと働ける職場をつくる (光文社新書)

 

人間尊重の価値観(ヒューマニスティックな価値観):人間は基本的に善であり、最適な場さえ与えられれば、自律的かつ主体的にその人がもつ力を発揮すると捉えることを重視する考え方です。

民主的な価値観(デモクラティックな価値観):ものごとを進めて決定するには、それに関連する、できる限り多くの人が参加し関与した方が決定の質が高まり、関与した人々やお互いの関係性にとっても効果的である、と捉える考え方です。

当事者中心の価値観:組織の当事者が現状と変革にオーナーシップをもつこと、つまり、当事者意識の高まりと主体的に変革に取り組むことを重視します。

社会的・エコロジカル的システム志向性:組織開発が目指すところは、組織内の視点だけで語れるものではなく、より広いシステムである社会や環境レベルを考慮する必要がある、と捉える考え方です。

 

この4つの価値観を眺めてみると、結果として三小の皆さんが大切にされてきたことだなあと。組織開発という視点で校内研究をつくってきたのだなあと。

端的に言えば、対話を通した組織開発だったのですよね。

 

ちなみにこの2冊も必読!!

 

組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす

組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす

 
対話型組織開発――その理論的系譜と実践

対話型組織開発――その理論的系譜と実践

  • 作者: ジャルヴァース・R・ブッシュ,ロバート・J・マーシャク,エドガー・H・シャイン,中村和彦
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2018/07/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログ (2件) を見る
 

①新書読んで、

②中原さん、中村さんの本でその歴史的背景、理論的背景を学んで(この本、恐ろしくわかりやすい。大学教員続けていたら必読にしたな−)

③そして歯ごたえのある「対話型組織開発」へ。

マネジメントに関わる人は必読すぎます。

 

そして、最後はこの言葉で終わりにしました。

 

子どもも大人も学ぶこと,

成長することを楽しんでいる学校。

さて、この提案を受けて私たちは

明日何からスタートしますか?

 

おまけ。

当日時間が来てしまい(涙)、使えなかったスライドも貼っちゃおう。

妹尾昌俊さんの名著、

変わる学校、変わらない学校―学校マネジメントの成功と失敗の分かれ道

変わる学校、変わらない学校―学校マネジメントの成功と失敗の分かれ道

 

 の中に、学校の組織マネジメントの機能例と停滞例が図示されています(85ページ)。妹尾さんの図は本当にわかりやすくぜひ見ていただきたいです。

 

今回、この図にインスパイアされ、ぼくなりに改変して、小金井三小で起きていることを図にしてみました(繰り返しますが実物の方がよいので本をご参照を)。

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こんな図にまとめられる2年間のチャレンジだったのではないでしょうか。

 

2年間伴走させていただき、幸せでした。

組織開発の伴走者はいかにあるべきかを体験を通して学ばせていただきました。

 

公立校の可能性、場の力、人の力を思いっきり実感した2年間でした。

 

校長先生、副校長先生のサーバントリーダーシップがどれだけ教職員の当事者性を刺激し、学校が変化していくか。

研究主任、副主任のあり方とチームワーク、ファシリテーションがどれだけ重要か。

目の当たりにした2年間でした。

特に研究主任の村上さんとは、ぼくが教職大学院の教員になった年に現職院生として学芸大学教職大学院にいらっしゃっていて、それ以来のお付き合いです。

共に学び、議論してきたからこそ、一緒に歩んでこられたなあと実感。

 

校長先生、三小の皆さん、ありがとうございました!

 

次のチャレンジはもう先生方の中で見えています。

教科の専門性は学びの両輪。ここに挑まなくては!という声も聞こえていました。

ここを土台に、ますますのご発展をお祈りいたします。

ぜひこの2年のこと、本にまとめてほしい!

当日の研究発表もめちゃめちゃステキだったし!

 

大熊教育長の最後の講話、感動しました。

枠組みを問い直すことの大切さ。こんな素晴らしい教育長の自治体から学校教育は変わっていくだろうな。

 

 

小金井三小で話したこと②

昨日の続きです。

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②学び手になってみる。

三小での特徴的な学び方は、「児童が授業で行った学びを,教職員でも実際に体験してみる」ということです。

例えば、研究授業で子どもがホワイトボードでの可視化を活用した相互インタビューを行った場合、その後の研修会でも実際に職員が同じように相互インタビューを行ってみます。

研究授業で哲学対話を行った場合は、研修会でも教職員が実際に哲学対話を行ってみます(当日は動画で共有しました)。

ある研修では、プロジェクトアドベンチャーを90分間教職員でじっくり体験しました。


実際にやってみることで「学習者が何を体験し、何を感じ、何を考え、何がしたくなったのか」が体感できるのです。このことを、東京学芸大学教職大学院の渡辺貴裕さんは、「学び手感覚を磨く」と表現していますが、まさに、です。

どうしても教師は、先生目線で授業を振り返ったりしてしまいがち。板書がどうとか、発問がどうとか。

もちろんそれも大事なのですが、最も大切なのは、学習者に取ってその時間がどうだったか、です。

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コルトハーヘンのALACTモデルは本を参照していただきたく、 

教師教育学:理論と実践をつなぐリアリスティック・アプローチ

教師教育学:理論と実践をつなぐリアリスティック・アプローチ

  • 作者: F.コルトハーヘン,Fred A.J. Korthagen,武田信子,今泉友里,鈴木悠太,山辺恵理子
  • 出版社/メーカー: 学文社
  • 発売日: 2012/02/20
  • メディア: 単行本
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 この本の中で振り返りを促す8つの質問として以下をあげています。

 

自分は何をしていたのか?(DO)
自分は何を考えていたのか?(THINK)
自分はどんな感情をもっていたのか?(FEEL)
自分は何をしたいのか?(WANT)

相手は何をしていたのか?
相手は何を考えていたのか?
相手はどんな感情をもっていたのか?
相手は何をしたいのか?

 

振り返りに置いて意外と抜ける視点は「相手は」です。学校文脈で言えば「学習者」視点から振り返ってみること。例えば、

「その時、子どもはどう感じていたんだろう」

「その時、子どもはどんなことを考えていただろう?」

と学習者から眺め直してみことで、授業の振り返りに新たな視点がもたらされます。

 

その視点を身につける一番近道(当社比)は、「学び手になってみる』ことで「学び手感覚を磨く」ことだなあと思っています。授業で見たことを直後に実際にやってみることで、「ああ、あのとき、あの子はこんな感じだったんじゃないかな」とリアリティを持って考えられます。

三小で大切にされていた学び、それは教職員が「学び手になってみる」こと。そして、その学びで起きる感情をも共に味わっていたことではないかと思います。

それは③の学びの「同型性」につながります。

 

③同型性

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東京学芸大学教職大学院、渡辺貴裕さんは、資料「5分でわかる対話型模擬授業検討会&カリ授演習」の中で、こう説明しています。ちょっと長いですが引用します。

カリ授演習I~IVでは、前後にそれぞれ 30~45 分程度時間をとって、担当教員6名での事前・事後 ミーティングを毎週行っています。事前ミーティン グでは、授業の流れの確認はもちろん、その場でア イデアを出し合ってそれがその日の進行に反映されることもたびたび。事後ミーティングでは、模擬授 業&検討会など複数教室に分かれて活動を行っていた場合には、それぞれでの出来事を共有し、次週以降の進行を調整するなどします。
これは、学生たちに対して求めている、協働でその場で生み出すことや実践を振り返って学ぶことを、 大学教員である自分たちも実践するものです。働きかける対象(学校教員にとっての子ども、大学教員にとっての学生や学校教員)に求めることは自分・ 自分たちも体現していなければならない。これを同型性と呼んで大事にしています 。

 

校内研究の場面での教職員の学び方と、教室での子どもたちの学び方は実は同じではないか?いい学び方であれば年齢を問わないはずです。

実際、三小では、研修場面で用いられていた様々な学び方が教室でも活用され始めています。ワールドカフェ、ホワイトボードによる思考や議論の可視化、学びのフォーメーション(座り方、集まり方)、ペアトークや小グループでのインタビュー、振り返りの重視(振り返りジャーナル等)、対話をベースとした学び等々。

教室での学びと、職員室での学びがダイレクトに結びついている。この同型性の重視が三小の特徴です。

 

研究発表当日に配られた紀要の中には、一人一人の先生方の「私の考える信頼ベースの学級とは」が載っていました。これは3人でインタビューしあって完成したものだそうです(ここも同型性。子どもたちもいくつもの学級で相互インタビューから記事づくりをしていました!)。

その言葉を抜粋してみます。

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これらを読むと、ぼくは、

「ああ、これは学級に限らないよなあ。職員室も、いや他の組織においても、同じように大切にしていきたいことだよなあ」

と思うのです。

こんな学級にしたい!と思ったら、先ず自分が当事者である学年や職員室をそんな組織にすることを目指す。だからこそ、三小の研究テーマには「聴き合い、語り合い、深め合う子供たち、そして私たち教師」と書かれているのですよね。そもそもの研究の目標に同型性が目指されていたのでした。

 

 

 

④実践コミュニティをつくる


「実践コミュニティ(Communities of practice )」とは 

「あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流の通じて深めていく人々の集団」(ヴェンガ−ら2002)

のことです。

コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践 (Harvard Business School Press)

コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践 (Harvard Business School Press)

  • 作者: エティエンヌ・ウェンガー,リチャード・マクダーモット,ウィリアム・M・スナイダー,櫻井祐子,野中郁次郎,野村恭彦
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 2002/12/18
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これを組織の中で積極的かつ体系的に育成し、中枢的な役割を担わせることが、組織を成功させる鍵だといいます。

ヴェンガ−によれば、「実践コミュニティ」は次の3つの基本的要素で成り立っているそうです。

領域
その実践コミュニティが、どのような問題を範囲とするかという定義。
どんな領域を設定するかによって、実践コミュニティの育成される方向が決まる。

コミュニティ
実際に相互交流する、この領域に関心を持つ人々の集団を指す。
このコミュニティがどのような関係かによって、実践コミュニティの豊かさが決まる。実践コミュニティがうまく機能すると、お互いのモチベーションを高め合ったり、信頼関係を生み出したりする。

実践
コミュニティが生み出し、共有し、維持する特定の知識のことである。共有する、一連の枠組みやアイデア、ツール、情報、文書、などである。言い換えれば、創出された知識ということ。

 

簡単に、乱暴に言い直せば、

1,一緒に取り組める実践があること
2,相互交流、相互貢献によって学べる関係があること
3,それによって新しい知識を生み出すこと

 

ということです。
この3つの要素がうまくかみ合うと 「実践コミュニティ」は「理想的な知識の枠組、 
つまり知識を生み出し、共有する責任を担うことのできる社会的枠組」 となります。

・・・・なんかこう書いてくると難しい感じがしますが、そんなことは全然なく。

このような「実践コミュニティ」は 「人類が洞窟に住み、たき火の周りに集い、獲物を追いつめる作戦や矢じりの形 、や食用に適する草の根などについて話し合っていた太古の昔から続く、人類発の知識を核とした社会的枠組」 だと、ヴェンガ−らは言います。

今で言うならば、例えば、道端に集まって子育ての悩みの解決策やコツをやりとりする
地域のお母さんたち、定期的に工房に集まって、陶芸の新しい作り方をあれこれと議論し合う陶芸家たち、料理サークルを作り、順番に自分のレシピを紹介し合うことにより新しい料理を身に付けていくパパ・ママがいる、等々。

彼らは、相互交流に価値を見出しているからこそ集まり、問題を解決したり、新しいア
イデアを出し合ったり、助言を与え合ったりする。いろいろな考え方を持った人が集まって共に学習することの価値を認めているからこそ集まっている「実践コミュニティ」なのですよね。

その価値は、何も新しい知識を獲得できる、生み出すことができると言うだけではなくて、そのコミュニティの中で理解し合える人と出会い、信頼関係を作って、その集団
に属しているという満足感も得られる可能性もあります。

 

何より大切なのは、自主的であり日常的であること。

三小では、校内に自主的なサークル(実践コミュニティ)が生まれています。

プロジェクトアドベンチャーサークル、ホワイトボード・ミーティングサークル、てつがく対話サークル、教科教育サークル等々。研究会当日には「パターンブロック研修」のお誘いが書かれていました。ハンズオンマスですね。

このような自主的な学びが大切にされている、奨励されている背景には、校長先生、副校長先生のリーダーシップが見逃せません。自由な試行錯誤やチャレンジを奨励する文化をつくるリーダーシップ、それはサーバントリーダーシップではないかと思うわけです。「どんどんやってみるといいよ!」という支えがあるからこそ、教職員はより主体的になるのですよね(後述しますが、組織開発で大切な4つの価値観の具現化です)。

サーバントリーダーシップ

サーバントリーダーシップ

  • 作者: ロバート・K・グリーンリーフ,ラリー・C・スピアーズ,金井壽宏,金井真弓
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2008/12/24
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このほかにも、定期的に行われている実践交流会(それぞれ教育実践のレポートを持ち寄って交流する会。それによってポジティブなコミュニケーションを増やし、同僚性と協働文化をつくる)も行われています。

実によく考えられた設計です。 

 

③に続く。

 

 

小金井三小で話したこと①

小金井市立小金井第三小学校の研究発表会が終わりました。

いやあ、ステキな研究発表会でした。

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500人近い参会者でした。その中で公開授業を行った5年生。石川晋さんが書かれているように、子どもの思考の強さに驚きました。

横に座っていた大熊教育長も、全く同じことをおっしゃっていました。

「この子どもの思考の深まりに気づいている人はどれくらいいるのだろう」と。

suponjinokokoro.hatenadiary.jp

 

校長先生のサーバントリーダーシップのもと、教職員の自由な試行錯誤が保証されていた2年間。支えるリーダーの存在は本当に大事。

子どもの学びと共に、大人の学び(職員室での学び)を大切にしてきた小金井三小。

ぼくは毎回の研究授業の度におじゃまして、授業へのフィードバックや研修のお手伝いをしてきました。

いったい、この学校では何が起きていたのでしょうか。研究発表会の講演で話してことをダイジェストでまとめてみます。

 

小金井三小では、信頼ベースの学級づくりがテーマでした。学級という組織を考える時に、バーナードの論を参考にして考えてみます。

バーナードは組織の3要素として、以下の3つをあげています。

・共通目的(ゴールやビジョン)

・貢献意欲

・コミュニケーション

これを学級づくりに強引に翻訳すると、

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こんな感じでしょうか。図にするとこんな感じ。

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(北野さんの図を参考にして岩瀬作成)

組織論から考える ワークショップデザイン

組織論から考える ワークショップデザイン

  • 作者: 北野清晃,宇野伸宏,久保田善明
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 2016/07/16
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 これって、学級だけに言えることなのでしょうか?

実は職員室も組織。となると、同じように3要素で考えることができそう。

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小金井三小を図にするとこんな感じ。

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こう描いてみたものの、管理職、研究主任も教職員のコミュニケーションの輪の中で協同探究していたなあと思います。そう思うと、図が違ってくるな。

というわけで、

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というような話を、小金井三小の研究がはじまったとき平成29年の5月にしました。

校長先生、研究主任、研究副主任との相談の上、信頼ベースの学級づくりの校内研究をす進めると同時に、学び合う職員室を創っていきましょう!という提案にしたのです。

 

教員が学校内で学び、成長する機会をどうデザインするか、ということは重要なテーマです。校内研究がその大きな役割を果たす「はず」なのですが、「校内研究」「校内研修」と聞くだけで「ああ…」とため息が出る人も多いはず(若い頃のぼく)。

木原(2010)は、校内研修には企画・運営に関わる 5つの問題点があると指摘しています。

1.機会が限定されている
2.個々の教師の問題意識を反映させがたい
3.型はめに陥りやすい
4.閉鎖性・保守性が強い
5.適切なリーダーシップが発揮されない

ひとつひとつの項目をみると、思い当たることも多いのではないでしょうか。研究の成果を「型」の創出に求める考え方が強く、また「仮説検証型」という名の、最初から落としどころが決まっているものもよく見受けられます。

(「子どもの主体性が発揮される授業が展開されれば学習意欲は高まるだろう」的な・・・そりゃそうでしょ的な・・・・ほんと多い。)

また、日本の主に公立校における校内研究は、その「内容」、つまりどの教科領域を対象にするか、どのような授業を目指すかなどに終始してしまいがちでした。
体育の得意な方が校長になると「校内研究は体育でいくぞ!」というわけです……

 その一方、研究組織はどのように組織すべきか、研究はどう進めていくのがよいのか等、組織の形態やプロセスのデザインへの意識は弱かったといえるでしょう。
今津(2001)は、学校研究における「組織の形態」への意識の弱さを指摘した上で、

日本では教師相互の関係性が緊密であることが前提とされていたために、「形態」へと研究関心が向かわなかったせいであろうと述べています。

 かつての学校では、同僚性がある程度機能していたので、若手教師は学校文化に参入することで同僚との関係性の中で学ぶことができていたと言えそうです。ぼくの若い頃はギリギリそうだったなあ。教育実習の時は職員室でお酒を飲むがまだ許されていた時代。

しかし、年齢構成の変化、多忙化の中で、その同僚性も機能しにくくなってきています。 また今津は、今までの日本の一般的な教師集団を「共同文化」すなわち、同質同調性が原則であり、個々の自己主張や競争よりも、組織メンバー全員の強調や同調を重視してきたといいます。つまり、まずはじめに「共同」ありきで画一性へと拘束し、各教師の個性や自律性の優先順位が低かったということです。この文化が木原の指摘している問題点とつながっていそうです。

教師が勤務時間内に学び合う時間はほとんど取れていないのが現状です。その限られた時間を従来の授業研究だけでは、とってももったいない!、とぼくは思います。「研究授業」という言葉を聞くだけで「ああ…」と気持ちが沈む人が少なからずいる現状。研究授業や授業研究自体が悪いのではなく、そこへ至るプロセス設計のミス、組織における学びの場としてのデザインの失敗があるとぼくは考えています。

ではこれからの校内研究はどこへ向かっていけばいいのか?

そんな未知のデザインへのチャレジ。それが小金井三小のチャレンジだったのです。

内容ではなく形態に焦点を当てる、つまり校内研究で、学校に「協働文化」を構築するチャレンジでした。

(今津によれば、協働文化とは、
「各教師のユニークなアイディアや実践を尊重しつつも、相互の連携を深めて、各教師が成長発達して学校全体の教育実践の質を高め、生徒の学習を促進させる文化」であり、教師一人ひとりを尊重した相互連携を目指すべきだと主張しています。そうすると子どもたちや教師の利益となり、さらにその学校が持つ組織文化が専門的に高められるだろうというわけです。学校に協働文化を創出しようという試み、教師を同質同調性から解き放ち、自律した専門家への道を歩むための素地を組織的につくっていく。その上で相互に連携し個人も組織も高まっていく、そしてそれが子どもの利益となる。そのような協働文化が生まれれば、教師同士は互いにサポートしあい、同僚同士で学び合い、教え合う活動が生まれやすくなるのではないでしょうか。)

協働文化については以下のレポート参照。ぼくの若かりし頃の若々しいレポート。

『教師も学び合う「協働文化」を生み出す学校スタイル
~上越市立高志小学校を事例として~」』

 

             *  *  *

 

では具体的に、小金井三小はどんなアプローチをしてきたのでしょうか。

具体的には5つのアプローチに分類できます(もっといろいろあるけれど)。

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一つずつ見ていきましょう。

 

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なんといってもラウンドスタディの導入が大きかったです。

 

[Round Study]教師の学びをアクティブにする授業研究─授業力を磨く! アクティブ・ラーニング研修法

[Round Study]教師の学びをアクティブにする授業研究─授業力を磨く! アクティブ・ラーニング研修法

 

ラウンドスタディは、ワールドカフェの「形式」を応用した研修法。気楽なカフェ的な会話がベースになっています。10回以上取り組んできました。回数を重ねるにつれ、授業について気楽に話すことが文化となりました。いやあ毎回本当によく話してきました。

指導案の形式をA4で1枚のシンプルなものにすることで負担を軽減したり、検討会後、茶話会を開いてジュースとお菓子でおしゃべりしたり。

コミュニケーションの量が増えることで、質的変化も起きてきたのです。終わった後もホワイトボードを囲んで話が泊まらなかったり、放課後の職員室でインフォーマルに授業の話に花が咲いたり。

この繰り返しで、少しずつ職員室が居心地のよい空間へと変化してきたようです。

鹿毛さんは居心地のよい空間について以下のように述べています。

日常的なコミュニケーションと相互に関わりあう心地よい体験の積み重ねによって相互理解が深まるとともに信頼感が互いに構築されることによって、自分の存在が受け入れられているという感覚が促され、その場が当人にとっての「居場所」となる。   

学習意欲の理論: 動機づけの教育心理学

学習意欲の理論: 動機づけの教育心理学

 

 これは、教室も職員室も変わらないなあと思うわけです。

 

つづく。



教室に行ったときに見ていること。

知り合いからメッセージで、「教室に行ったときに何を一番見ていますか?」と聞かれました。

ふむ、なんだろう。考えてみよう。

ここ数年、いろいろな教室にお邪魔することが増えてきています。

あらためて考えてみて、ぼくが一番気にしていること、それは、「教室の中に参画の仕組みと文化があるか」です。

見ているというより気にしている。

例えば 、そろそろ12月も近いしクリスマスパーティーをしたいなあと思った子がいたとします。

その時に、声を上げて実現へ向かう仕組みがあるか、そのように「〜たい」ということが実現できる文化があるかということです。

「先生!パーティーしようよー!」ではなく。

 

朝のサークルタイム。

「何か相談したいことある?」と今日のファシリテーター役の子が問いかけます。

ある子が「12月が近いしクリスマスパーティーがしたいんだけど」と切り出しました。

「もう少し詳しく聞いていい?」

「うん、12月、みんなでクリスマスパーティーがしたいんだよね。卒業も近いし、今何人かで練習しているダンスも披露したいし」

「じゃあ、プロジェクトチームに入りたい人を募集して企画してもらおう。やりたい人−」

「はーい!」

「12人もいる!まーいいか。ではお願いします!」

 

これでOK。

やるかやらないかを話し合うより、やりたい人が、必要な人に相談しながら企画して進めていく。この試行錯誤が大事だなと思うわけです。

そのうち、プロジェクトチームから朝のサークルで提案があるはずです。

プロジェクトチームの人は時間確保のために、担任と交渉したり、どんなことをしたいかアンケートをとったりとステークホルダーと必要な相談をしながら進めていく。「〜たい」を大事にする。

 

「最近、登校班(近い地域の子どもが集まって登校する仕組み)でちょっとトラブルがあるんだけど、だれか解決のためにファシリテーターやってくれない?」

という声がでる。

 

何か問題が起きたとき、企画したいこと、やってみたいこと、改善したいこと等、「〜たい」という欲求が生まれたとき、すぐに提案して動き出すことができる、そんな仕組みや文化が教室の中にあるか。

まずやってみること(試行)が大事にされているか。

教師を介さずに動き出せる仕組みと文化、教師に許可を得るということなく動き出せる仕組みと文化、それを一番気にしているなあ。

簡単に言えば、「自由を使ってみること(試行錯誤してみること)が大事にされているか」です。

 

言い換えると、生成的アイデアで組織が創られていく、自己組織化していく、ということでしょうか。 正解や目的、目標に向かっていくのではなく、弁証法的に意味を形成していくわけですね。

 

 

 

 

担任時代、学級で行ったワールドカフェである子が書いていたこと。

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熊谷晋一郎さんは、依存先を増やすことが自立すること、とおっしゃっていました。

そのためにも、「〜たい」から出発して、折り合いつけたり、一緒にやったり、力を借りたり、貸したりする原体験を積み重ねること。

学校だからこそできることだなあと思います。

 

では、せんせいはそこにどういればよいか。

苫野さんは協同探究者としての教師と行っていますが、共感します。

ぼくは協同探究者でいるために、共同修正のマインドを持っていたいなあと思います。

iwasen.hatenablog.com

 

 

犬のロンのこと。

小学生の頃、通学路の途中の家に「ロン」という黒白の犬がいた。ちょっと大きめの犬。青い犬小屋に住んでいた。毎朝「ロンおはよう!」となでて、帰りには「ロン!元気だった?」と、めちゃくちゃになでる。そんな毎日。
ロンとの時間は、ぼくの日常だった。自分が飼っているような気分だった。

 

5年生のある日、
「ロンは天国に行きました。かわいがってくれた皆さんありがとう」
という紙が小屋に貼ってあった。死というものに初めて出会った瞬間。

なんと受け取ってよいかわからない出来事。
ロンのいない小屋は、小学卒業まで置かれていた。毎朝前を通るたびにロンのことを想った。

 

中1になる時に北海道から三重に引っ越した。
引っ越してすぐ。近くのジャスコ(今のイオンですね)に行くと、ペットショップの前のゲージに子犬が6匹。

「1匹1000円」という雑種の中に黒白の子犬がいた。
「ロンだ」。そう思ったぼくは両親に懇願し、半ば強引に連れて帰った。生まれ変わりと信じたぼくは「ロン」と名付け、一緒に暮らし始めた。
青い犬小屋を父親と一緒につくった。

 

山奥に住んでいたので、散歩は山の中。
春に散歩に行くと、家に着く頃には、ビニール袋の中は、わらび、タラの芽、ぜんまいでいっぱいだった。
ヘビに出会って2人で格闘したこともある。
夜には中学の友だちと、ロンと蛍を見にいった。

 

中高と深刻な反抗期まっただ中だったぼくにとって、ロンは日常の中の心の支えだった。かなりしんどい状況だったぼくにとって、何も言わずに好意を寄せてくれるロンにぼくは救われていた。親とは毎日のように口論。ひどい状態で兄弟にもとても迷惑をかけた。ロンにだけは、優しい言葉をかけることができた。

 

高校の時には、ロンの散歩中に知り合った人と、初めて付き合うことにもなった。毎日毎日1年半、ロンの前でおしゃべりした。

 

ぼくが東京の大学に行くとまもなくロンの訃報を聞いた。
ロンのことが気になっていたぼくにとって、どう受け止めていいかわからなかった。

大学の寮のまわりを散歩しながら、ほっとして泣いた。

ぼくにとってロンはペット以上の存在だった。

 

     *  *  *

 

 

あれ?
気づいたら、先週から我が家に黒白の犬が!
ようこそ。
名前はロンではなく、よつばです。
小5娘がつけました。
彼女にとってどんな存在になるだろうか。

 

いやー、よつばかわいいわー。
毎日さっさと家に帰りたい。明日の朝6時からお散歩デビューです。

 

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研究授業で本当にいいの?

今日の大学院の授業での小講義(ミニレッスン)で話そうと思っていたこと(≠話したこと)を転記しておきます。

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教員が学校内で学び、成長する機会をどうデザインするか、ということは重要なテーマです。校内研究がその大きな役割を果たす「はず」なのですが、「校内研究」『校内研修」と聞くだけで「ああ…」とため息が出る人も多いはず(若い頃のぼく)。

木原(2010)は、校内研修には企画・運営に関わる 5つの問題点があると指摘しています。

1.機会が限定されている
2.個々の教師の問題意識を反映させがたい
3.型はめに陥りやすい
4.閉鎖性・保守性が強い
5.適切なリーダーシップが発揮されない

ひとつひとつの項目をみると、思い当たることも多いのではないでしょうか。研究の成果を「型」の創出に求める考え方が強く、また「仮説検証型」という名の、最初から落としどころが決まっているものもよく見受けられます。

(「子どもの主体性が発揮される授業が展開されれば学習意欲は高まるだろう」的な・・・そりゃそうでしょ的な・・・・ほんと多い。)

 

また、日本の主に公立校における校内研究は、その「内容」、つまりどの教科領域を対象にするか、どのような授業を目指すかなどに終始してしまいがちでした。
体育の得意な方が校長になると「校内研究は体育でいくぞ!」というわけです……

 その一方、研究組織はどのように組織すべきか、研究はどう進めていくのがよいのか等、組織の形態やプロセスのデザインへの意識は弱かったといえるでしょう。
今津(2001)は、学校研究における「組織の形態」への意識の弱さを指摘した上で、

日本では教師相互の関係性が緊密であることが前提とされていたために、「形態」へと研究関心が向かわなかったせいであろうと述べています。

 かつての学校では、同僚性がある程度機能していたので、若手教師は学校文化に参入することで同僚との関係性の中で学ぶことができていたと言えそうです。ぼくの若い頃はギリギリそうだったなあ。教育実習の時は職員室でお酒を飲むがまだ許されていた時代。

 

しかし、年齢構成の変化、多忙化の中で、その同僚性も機能しにくくなってきています。 また今津は、今までの日本の一般的な教師集団を「共同文化」すなわち、同質同調性が原則であり、個々の自己主張や競争よりも、組織メンバー全員の強調や同調を重視してきたといいます。つまり、まずはじめに「共同」ありきで画一性へと拘束し、各教師の個性や自律性の優先順位が低かったということです。この文化が木原の指摘している問題点とつながっていそうです。

 教師が勤務時間内に学び合う時間はほとんど取れていないのが現状です。その限られた時間を従来の授業研究だけでは、とってももったいない!、とぼくは思います。「研究授業」という言葉を聞くだけで「ああ…」と気持ちが沈む人が少なからずいる現状。研究授業や授業研究自体が悪いのではなく、そこへ至るプロセス設計のミス、組織における学びの場としてのデザインの失敗があるとぼくは考えています。

 ではこれからの校内研究はどこへ向かっていけばいいのでしょうか?
 一つのアイデアとして、内容ではなく形態に焦点を当てる、つまり学校に「協働文化」を構築するための時間にするのはどうでしょうか。

今津によれば、協働文化とは、
「各教師のユニークなアイディアや実践を尊重しつつも、相互の連携を深めて、各教師が成長発達して学校全体の教育実践の質を高め、生徒の学習を促進させる文化」であり、教師一人ひとりを尊重した相互連携を目指すべきだと主張しています。そうすると子どもたちや教師の利益となり、さらにその学校が持つ組織文化が専門的に高められるだろうというわけです。

 学校に協働文化を創出しようという試み、教師を同質同調性から解き放ち、自律した専門家への道を歩むための素地を組織的につくっていく。その上で相互に連携し個人も組織も高まっていく、そしてそれが子どもの利益となる。そのような協働文化が生まれれば、教師同士は互いにサポートしあい、同僚同士で学び合い、教え合う活動が生まれやすくなるのではないでしょうか。

 そう考えると、端的には、対話型組織開発に向かっていくべきと考えます。

 

対話型組織開発――その理論的系譜と実践

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職員室のチームビルディング、様々な対話をベースとした組織開発の手法(アプリシエイティブ・インクワイアリー、OST、フューチャーサーチ、ワールドカフェ等)などいろんなアプローチがありそうです。

対話型模擬授業検討会も、学校の中に対話の文化の構築という側面もあります。

 

そもそもぼくが2002年頃からワークショップやファシリテーションに関心を持ち始めたのは上記のような問題関心でした。

形態(組織デザイン)が変わってくれば、研究授業も価値ある学びの場として再機能してくるかもしれません。もちろん研究授業のあり方の変革から組織自体を変えていくというアプローチもあります。これは対立関係ではなく、両方あり、です。

とはいえ「校内研修」、「学校研究」という言葉に囚われてしまって、限られまくっている学校関係者全員が関われる貴重な時間を、慣習的に「研究授業」にしてしまうことで、今学校がしなくてはいけないこと、したほうがいいこと、したいことが見えなくなってきているんじゃないかなあと思ったりするわけです。

少なくとも「えー・・・研究授業だれやる?・・」という時点で、その組織は、その前にやるべきことがあるはずです。研究授業アプローチを一度手放してみるといいと思うなあ。
 

 

参考・引用文献

・木原俊行「教師の職能成長と校内研修」北神正行、木原俊行、佐野享子『学校改善と校内研修の設計(講座現代学校教育の高度化第 24巻)』2010,学文社

・今津孝次郎 「学校の協働文化」 『変動社会の中の教育・知識・権力」藤田英典、清水宏吉編 新曜社 2001