いわせんの仕事部屋

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小金井三小で話したこと②

昨日の続きです。

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②学び手になってみる。

三小での特徴的な学び方は、「児童が授業で行った学びを,教職員でも実際に体験してみる」ということです。

例えば、研究授業で子どもがホワイトボードでの可視化を活用した相互インタビューを行った場合、その後の研修会でも実際に職員が同じように相互インタビューを行ってみます。

研究授業で哲学対話を行った場合は、研修会でも教職員が実際に哲学対話を行ってみます(当日は動画で共有しました)。

ある研修では、プロジェクトアドベンチャーを90分間教職員でじっくり体験しました。


実際にやってみることで「学習者が何を体験し、何を感じ、何を考え、何がしたくなったのか」が体感できるのです。このことを、東京学芸大学教職大学院の渡辺貴裕さんは、「学び手感覚を磨く」と表現していますが、まさに、です。

どうしても教師は、先生目線で授業を振り返ったりしてしまいがち。板書がどうとか、発問がどうとか。

もちろんそれも大事なのですが、最も大切なのは、学習者に取ってその時間がどうだったか、です。

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コルトハーヘンのALACTモデルは本を参照していただきたく、 

教師教育学:理論と実践をつなぐリアリスティック・アプローチ

教師教育学:理論と実践をつなぐリアリスティック・アプローチ

  • 作者: F.コルトハーヘン,Fred A.J. Korthagen,武田信子,今泉友里,鈴木悠太,山辺恵理子
  • 出版社/メーカー: 学文社
  • 発売日: 2012/02/20
  • メディア: 単行本
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 この本の中で振り返りを促す8つの質問として以下をあげています。

 

自分は何をしていたのか?(DO)
自分は何を考えていたのか?(THINK)
自分はどんな感情をもっていたのか?(FEEL)
自分は何をしたいのか?(WANT)

相手は何をしていたのか?
相手は何を考えていたのか?
相手はどんな感情をもっていたのか?
相手は何をしたいのか?

 

振り返りに置いて意外と抜ける視点は「相手は」です。学校文脈で言えば「学習者」視点から振り返ってみること。例えば、

「その時、子どもはどう感じていたんだろう」

「その時、子どもはどんなことを考えていただろう?」

と学習者から眺め直してみことで、授業の振り返りに新たな視点がもたらされます。

 

その視点を身につける一番近道(当社比)は、「学び手になってみる』ことで「学び手感覚を磨く」ことだなあと思っています。授業で見たことを直後に実際にやってみることで、「ああ、あのとき、あの子はこんな感じだったんじゃないかな」とリアリティを持って考えられます。

三小で大切にされていた学び、それは教職員が「学び手になってみる」こと。そして、その学びで起きる感情をも共に味わっていたことではないかと思います。

それは③の学びの「同型性」につながります。

 

③同型性

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東京学芸大学教職大学院、渡辺貴裕さんは、資料「5分でわかる対話型模擬授業検討会&カリ授演習」の中で、こう説明しています。ちょっと長いですが引用します。

カリ授演習I~IVでは、前後にそれぞれ 30~45 分程度時間をとって、担当教員6名での事前・事後 ミーティングを毎週行っています。事前ミーティン グでは、授業の流れの確認はもちろん、その場でア イデアを出し合ってそれがその日の進行に反映されることもたびたび。事後ミーティングでは、模擬授 業&検討会など複数教室に分かれて活動を行っていた場合には、それぞれでの出来事を共有し、次週以降の進行を調整するなどします。
これは、学生たちに対して求めている、協働でその場で生み出すことや実践を振り返って学ぶことを、 大学教員である自分たちも実践するものです。働きかける対象(学校教員にとっての子ども、大学教員にとっての学生や学校教員)に求めることは自分・ 自分たちも体現していなければならない。これを同型性と呼んで大事にしています 。

 

校内研究の場面での教職員の学び方と、教室での子どもたちの学び方は実は同じではないか?いい学び方であれば年齢を問わないはずです。

実際、三小では、研修場面で用いられていた様々な学び方が教室でも活用され始めています。ワールドカフェ、ホワイトボードによる思考や議論の可視化、学びのフォーメーション(座り方、集まり方)、ペアトークや小グループでのインタビュー、振り返りの重視(振り返りジャーナル等)、対話をベースとした学び等々。

教室での学びと、職員室での学びがダイレクトに結びついている。この同型性の重視が三小の特徴です。

 

研究発表当日に配られた紀要の中には、一人一人の先生方の「私の考える信頼ベースの学級とは」が載っていました。これは3人でインタビューしあって完成したものだそうです(ここも同型性。子どもたちもいくつもの学級で相互インタビューから記事づくりをしていました!)。

その言葉を抜粋してみます。

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これらを読むと、ぼくは、

「ああ、これは学級に限らないよなあ。職員室も、いや他の組織においても、同じように大切にしていきたいことだよなあ」

と思うのです。

こんな学級にしたい!と思ったら、先ず自分が当事者である学年や職員室をそんな組織にすることを目指す。だからこそ、三小の研究テーマには「聴き合い、語り合い、深め合う子供たち、そして私たち教師」と書かれているのですよね。そもそもの研究の目標に同型性が目指されていたのでした。

 

 

 

④実践コミュニティをつくる


「実践コミュニティ(Communities of practice )」とは 

「あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流の通じて深めていく人々の集団」(ヴェンガ−ら2002)

のことです。

コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践 (Harvard Business School Press)

コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践 (Harvard Business School Press)

  • 作者: エティエンヌ・ウェンガー,リチャード・マクダーモット,ウィリアム・M・スナイダー,櫻井祐子,野中郁次郎,野村恭彦
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 2002/12/18
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これを組織の中で積極的かつ体系的に育成し、中枢的な役割を担わせることが、組織を成功させる鍵だといいます。

ヴェンガ−によれば、「実践コミュニティ」は次の3つの基本的要素で成り立っているそうです。

領域
その実践コミュニティが、どのような問題を範囲とするかという定義。
どんな領域を設定するかによって、実践コミュニティの育成される方向が決まる。

コミュニティ
実際に相互交流する、この領域に関心を持つ人々の集団を指す。
このコミュニティがどのような関係かによって、実践コミュニティの豊かさが決まる。実践コミュニティがうまく機能すると、お互いのモチベーションを高め合ったり、信頼関係を生み出したりする。

実践
コミュニティが生み出し、共有し、維持する特定の知識のことである。共有する、一連の枠組みやアイデア、ツール、情報、文書、などである。言い換えれば、創出された知識ということ。

 

簡単に、乱暴に言い直せば、

1,一緒に取り組める実践があること
2,相互交流、相互貢献によって学べる関係があること
3,それによって新しい知識を生み出すこと

 

ということです。
この3つの要素がうまくかみ合うと 「実践コミュニティ」は「理想的な知識の枠組、 
つまり知識を生み出し、共有する責任を担うことのできる社会的枠組」 となります。

・・・・なんかこう書いてくると難しい感じがしますが、そんなことは全然なく。

このような「実践コミュニティ」は 「人類が洞窟に住み、たき火の周りに集い、獲物を追いつめる作戦や矢じりの形 、や食用に適する草の根などについて話し合っていた太古の昔から続く、人類発の知識を核とした社会的枠組」 だと、ヴェンガ−らは言います。

今で言うならば、例えば、道端に集まって子育ての悩みの解決策やコツをやりとりする
地域のお母さんたち、定期的に工房に集まって、陶芸の新しい作り方をあれこれと議論し合う陶芸家たち、料理サークルを作り、順番に自分のレシピを紹介し合うことにより新しい料理を身に付けていくパパ・ママがいる、等々。

彼らは、相互交流に価値を見出しているからこそ集まり、問題を解決したり、新しいア
イデアを出し合ったり、助言を与え合ったりする。いろいろな考え方を持った人が集まって共に学習することの価値を認めているからこそ集まっている「実践コミュニティ」なのですよね。

その価値は、何も新しい知識を獲得できる、生み出すことができると言うだけではなくて、そのコミュニティの中で理解し合える人と出会い、信頼関係を作って、その集団
に属しているという満足感も得られる可能性もあります。

 

何より大切なのは、自主的であり日常的であること。

三小では、校内に自主的なサークル(実践コミュニティ)が生まれています。

プロジェクトアドベンチャーサークル、ホワイトボード・ミーティングサークル、てつがく対話サークル、教科教育サークル等々。研究会当日には「パターンブロック研修」のお誘いが書かれていました。ハンズオンマスですね。

このような自主的な学びが大切にされている、奨励されている背景には、校長先生、副校長先生のリーダーシップが見逃せません。自由な試行錯誤やチャレンジを奨励する文化をつくるリーダーシップ、それはサーバントリーダーシップではないかと思うわけです。「どんどんやってみるといいよ!」という支えがあるからこそ、教職員はより主体的になるのですよね(後述しますが、組織開発で大切な4つの価値観の具現化です)。

サーバントリーダーシップ

サーバントリーダーシップ

  • 作者: ロバート・K・グリーンリーフ,ラリー・C・スピアーズ,金井壽宏,金井真弓
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2008/12/24
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このほかにも、定期的に行われている実践交流会(それぞれ教育実践のレポートを持ち寄って交流する会。それによってポジティブなコミュニケーションを増やし、同僚性と協働文化をつくる)も行われています。

実によく考えられた設計です。 

 

③に続く。