いわせんの仕事部屋

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岩瀬学級訪問記

Facebookの「過去のこの日」で、学級担任最後の年の参観記があがってきました。いただいたことをすっかり忘れていた。

 

現在は上越教育大学で教師教育に関わられている大島崇行さんからの「岩瀬学級訪問記」です。

自身の実践者、探究者としての記録として、

私はこれからどこにいきたいのか、どうありたいのかを定めるための材料として、

公立校の可能性を一緒に考えるための素材として、

大島さんの許可を得て、ここに載せておきます。

今は学級アプローチではなく、学校としてのアプローチをしていることの意味と価値と責任を考えたり。

 

この先に歩み始めてますよ、いま。

 

 

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岩瀬学級訪問記


今回の岩瀬学級の訪問の目的の1番は,岩瀬さんの「先生」としてのあり方を感じることでした.
目的はバッチリ達成でした.
きっとそうだろうなあと思っていた,いやそれ以上の姿がそこにあり,自分の予想は間違っていないなってことを確信することができました.

 

<訪問メモ>
★朝の歌
朝から衝撃.岩瀬さんの異常なまでの笑顔による形態情報.
そういえばかつて岩瀬さんと笑顔の話になった時に,岩瀬さんは笑顔の練習をしていたって言っていたなあ.もう染みついているんだろう.言葉でフィードバックするわけでものなし,笑顔で空気を作っている.
朝は歌.まあ,普通の学級の歌声.なんだか安心した.どこぞのカリスマ教師の学級のビデオのように学級が「少年少女合唱団」になっていない.
こういう姿に「ああ,大丈夫なんだ,ガツガツいかなくてもいいんだ」と安心させられる.
決して教師が満足する歌声ではない.僕ならここで,「う〜ん,声が小さいなあ.もう一回やってみよう」と声をかけてしまいそう.
さて,岩瀬さんはどうする?子どもたちは?
岩瀬さんは子どもたちに話しかけない.子どもたちも先生を気にしない.リーダーの子がみんなに呼びかける.「どうだったか周りの子と話してみて」.
子どもたちは周りの子と話し合う.その後サークルになって全体で対話.この間,岩瀬さんは終始ニコニコ笑顔.みんなの様子を見ながら,脱いだ服がそのままになっている子の服をたたんであげる.父の姿.これも形態情報.こういうところで安心感をつくっているんだなあ.嬉しいよな.
子どもたちは,「歌う→周りの子たちと感想→サークル対話→歌う→サークル」の流れで活動.自分たちで進めていった.
2回目の歌の入りを聞いて感動.鳥肌がたった.明らかに1回目と歌声が違う.ああ,こういうことなんだなあ.自分たちで決めて自分たちで行うことの力は.
声の大きさ,伸びやかさ,表情.やらされている感のゼロの雰囲気だった.途中でCDが止まった時の子どもたちの対応もいいなあ.次のどうするかを決める.笑い声もあって.
「普通」の学級は,あんなときは先生の方をむいて,先生の指示を待つんだろうな.この子達は,「イワセン」を見ない.自分たちで決める.

★朝の会サークル
きっと日本中で行われているだろう朝の健康観察.だけど,こんな方法は初めて出会った.みんながみんなに健康状態を聞き合う.「○○どう?元気?」「うん,元気」こんな会話がサークル内で四方八方乱れるように行われている.生き生きとした感じ,暖かな空気.ああ,いいなあ.
朝の対話のコーナー.今朝の対話テーマは「もしもスーパーヒーローになったら」.もうどうでもいいっていうくらいのたわいのないテーマ.でも,こういう意味のない下らないテーマであることに意味があるだろうな.こういうテーマで話ができる.楽しめる.こういう対話をして,関係ができているからこそ深い話もできる.きっとそうなんだと思う.リーダーが「始めてください」というと,近くの子と話し始める.「この子とじゃなきゃダメ」というわけではなく,近くの子と.中には3人で話しているグループもあり,1人になる子はいない.
周りの子たちとの対話が終わった後,リーダーが「誰か発表してくれる人いますか?」というと,たくさんの子が手を挙げて話をする.聞き方もいい感じ.話している子の邪魔をしないし,適度にツッコミをいれたりする.受容的な空気だった.
1時間目に入る前から子供達の自己決定だらけ.先生の判断による指示は殆どない.こんな学級なら子どもたちはぐんぐんと力を伸ばしていくんだろうなと納得.


★1時間目 自立チャレンジ(ブロックアワー)
教室内には終始,優しい空気が流れている.子どもたち同士のいじりもあり、それは優しいいじりである.ガツガツしていない学び合い、しっとりとした空気.それぞれの目標に向かって学ぶ姿.
朝から1限をみると,やっていることのダイナミックさや緻密さには違いがあるが,やっていること方向性は岩瀬さんも僕も似たようなことをしている.でも、決定的に子どもの姿や学級の空気が違う.きっとその違いを生んでいるのは僕になる.僕の立ち居振る舞いだ.僕には子どもたちをコントロールしたい病があって、自由にさせながらも結局は枠にはめようとしている。表面的には自由だけど、決して自由ではない。僕が子どもたちを掌握しやすいように,そのための手段として自由な環境を作っているにすぎないのではないかと気づく.これは,力による指導を選択する教師や,徹底的な一斉型で子どもたちを見事にコントロールするような教師と,その延長線上にいる.僕は僕のためにやっている.
岩瀬さんは子供達のチカラを信じているし、それがぶれていない。そして、自らが楽しんでいる。そこが子どもたちに伝わっているんだろうな。
そういえば,6年生定番の卒業カウントダウンカレンダーを作っていない. 子供達が言ってこないから?あらら,会社活動ポスターもないや.必要ないからなんだろうけど,でも会社活動ポスターあってもいいような.誰が何の会社か可視化できるから.何でだろう・・・?聞いてみたい.
休み時間は10分.10分しかなくてもアルゴなどで遊ぶ.岩瀬学級は遊び道具にあふれている.そういえば,学校ってこういう遊び道具ってないよな.持ってきていいのは冬の期間だけ.子どもは外で遊ぶものだ,外で遊んだほうがいい,というのが前提になっているんだろうな.もちろん,外で元気に遊べば体力もつくし,仲間とも関係性を結ぶことができる.でも,外で遊ぶのが好きじゃない子もいるし,外で遊びたい気分じゃない時もある.
大人だってそう.休日にアウトドアを楽しみたい時もあるし,美術館や映画館に行きたい時も,そして家でゴロゴロしていたい時もある.
でも,子どもたちの休み時間にはその選択肢があまりない.「外で遊ぶことがいいことだ」プレッシャーをかけられ居心地の悪さを感じている子もいるんじゃないかなあ.休日じゃなくて休み時間だからでしょって言われれば,そうなのかもしれないけど,45分間×5コマ(6コマ)集中して「勉強」しているんだから,それくらいの自由裁量があっていいんじゃないかなあ.
読書ノートを見せてもらう.ブッククラブのためのノート、振り返りジャーナルと同じ大きさ。話し合うことをメモしている。感想、人間関係図など。

★2時間目 算数
インストラクションなし。直ぐに学び合い。男女関係なくグループを組む。
インストラクションに関して自分は原稿を何本か書いたけど,「ああ,そういえば,そうだったな」と気づかされる瞬間だった.今まで書いてきた原稿には,「インストラクションは丁寧に.」「価値もきちんと伝えて,枠組みをしっかりすることがポイントです」なんてことを書いてきた.でも,それだけじゃないんだよな.段々と学級内で目標が共有されていって,学級の文化ができてくると,あまりインストラクションをする必要がなくなってくる.むしろインストラクションがノイズになることさえある.だからその学年の終わりくらいになると段々とインストラクションの時間は短くなってくるんだよな.インストラクションはなくったっていんだよなってことに改めて気づく.
今度の原稿にはそんなことをかけたらいいなと思った.
子どもたちは「○○先生〜(TT)」って呼ぶけど、「いわせーん」って呼ばない。興味深いなあ.
子どもたちが学んである間に岩瀬さんと対話.
岩瀬さんから,次のような話をお聞きした.
春から構成的な人間関係づくりを沢山してきている.例えば,お試しのグループ活動.様々な組み合わせができるような工夫をする.例えば,理科授業ではくじで決めたチームで実験を行ったり、国語授業のチームは班のメンバーでやったり。同時期に様々なグループ・関わり合いがある.
うんうん,納得.朝の様子をみてもその一端を垣間見ることができる.朝のサークル対話,健康観察.楽しく,気楽にこどもたちの関わりを生む仕掛けが山のようにある.こういう活動の積み重ねが今の学級にあるのだろうな.
だから,算数の学び合いも流動的な人間関係だそうだ.算数だけのグループができる.きっと試行錯誤した結果,このようなグループが算数をするにはいいと判断したんだろうって岩瀬さんが言っていた.
ぼーっとベンチに座って考える,岩瀬さんへの質問.
・サークルベンチとか、畳とか無くてもこういうクラスはつくれるか?
・新しいネタを持ってきたときはコントロールしたくない?こうなって欲しいなって思うはずなんだけど。
・インストラクションするときとしない時ってどんな時。

★なんでピタゴラ装置をすることになったのか?
クリスマス会の時にピタゴラスイッチをしたグループがあって、それが好評。
それじゃ、理科のてこの単元でできるんじゃないかと導入。最後だから思いっきり試行錯誤させたい。女子のトラブルがあったから癒しの意味もある。
単元構成は、「ピタゴラスイッチ作り→てこの勉強、これ使えるんじゃないかとアイディア生まれる→ピタゴラスイッチ作り 全9時間andテスト」という流れ.
ピタゴラ装置づくりが,大学院に来ての自分の気づきに重ね合わさる.大学院での衝撃の一つに図画工作がある.自分は図画工作の授業に出ていた.教授の話を聞いて,自分で作ってみて,ああ図工っていいなあって思った.感性と情緒とかって本当に重要.素材の感触を確かめたり,試行錯誤したり,わけのわからないものを作ったり.仲間と大きな作品を作ったり,色を塗ったり.そんな時間って尊い.現場に戻ったら,美しい作品づくりの図工を目指さない,協働の作品づくり,感性の図工をもっとしたいなって思っていた.そこにこのピタゴラ装置.見ている方には,ピタゴラ装置づくりを楽しいんでいるようにしか見えないけど,きっと子供達はもっと多くのことを感じているんだろうなって今の自分は思える.

★4時間目後半  三年生と自主学習ノートの学び合い
岩瀬さんのインストラクション.岩瀬さんのインストラクションは,嫌味がない.テンポがいい.三年生に対してのインストラクションでも1分ほど.ノイズがなく,本当にシンプルでいて,核心をついている.見事だなあ.
自主学習ノート異学年のプログラムデザインも秀逸.
最初2時間顔合わせをして6年生と3年生が一緒に練習.最初1週間は毎日チェックしてあげる.その後それぞれ頑張ろうね〜って別れて1週間.そして再開が今日のこの時間.1週間毎日見ていた子の1週間ぶりのノート.それは,6年生は気になるよなあ.3年生も頑張ろうと思うよなあ.ほんと見事なデザイン.
★5時間目 ブッククラブ
ブッククラブ見ることができて本当によかった.ずっと見たいと思っていたことが叶って嬉しい.こういう時間を僕は作りたい.こういう時間が国語の時間に保障されてしかるべきだよなって思った.
今日の授業デザイン
・5分間自分のノートや本を見直し、何を話すか考える
・場を作る
・ビーイングで今日の目標を決める
 (前にビーイングしている 子どもたちビーイングの中から選んでいた)
・あらすじからスタート
・14:45まで
「非・バランス」のグループ(たまたま,僕は非・バランスを数ヶ月前に読んだのでこのグループを選んだ)
女の子4人のグループ.
「さらさんは場所知らないはずなのに山まで迎えに来たのは何故?」
「いやいや、迎えに行ってないよ。」
「あっ,そうなんだ」
読みの事実確認が行われる.誤読ってしているんだなあ.こういう事実確認って必要なんだな.
でも,事実確認ばかりで終わると残念だなあと思っていたところで,「なんで万引きしたんだろう?」って問いがグループの中で起きる.
「中学に行って、色々変わろうとして、ストレスがたまったんだと思うな」
「私は,クールに生きるということを勘違いしているからだと思った.万引きすることとか人に冷たくすることとかがクールなことだって勘違いしているんじゃない?」なんてことが話し合われていて,彼女たちの「今」の中での生き生きとした問い・考えが語られる.
これって,一斉指導の教科書での学習ではなかなかできないことのように思われる.自分で選んだ本,自分の読みの確認,読みの中で生まれた問いを仲間との対話すること.こんな環境だったからこその彼女たちの対話だったのだと思う.
一方,「なんで、男の人はお茶って言っていたのに山に連れて行ったんだろう。」
「作者かさらさんと主人公を会わせたかったから無理やり作ったのかな?」
「でも、そこまで詳しく男の人のことをかかなくていいよね。」
「なんでかなあ。」
なんて対話があった.
また,隣の別グループでは,
「誘拐みたいだよね。」
「ついていく主人公も主人公だよね。」
「やばいって思うのが遅くない?」
なんて対話があって,結構この子達って批判的に物語を読んでいるんだなって思った.主人公に感情移入しないのか,まだ,小学生段階ではそれほど共感できないのかなのかな.
「なんでさらさんは泣いていたんだろうね。」
「知らない。」
「知らないじゃないよ。この子が傷ついているのが分かっていたんだよ。」
A「やっぱり、私が喋りすぎていたよね。」
B「しゃべりすぎ。」
A「だってみんな,しゃべらないんじゃない。仕方ない。」
C「私がしゃべっていなかったから。」
A「そうふうに考えると公平じゃなかったね。」
A「こないだから比べるとできることが増えた。沈黙が減った。」

★放課後のリフレクション
Q:教室で岩瀬さんは何を見ているか。
A:その子のエピソード。それまでの時間の流れ、その時間の動き。一人一人の物語を読む。気持ちを想像している。
このQ andAが興味深かった.僕は,子供達の物語を語れるか.否.そこが岩瀬さんとの大きな違い。
岩瀬さんは,一人一人の物語を見ているからこそ、子供達の姿を見て,自分の出番について考えることができる.待つのか,見るのか,話しかけるのか・・・って.
教室に1つの集団じゃない.教室の30人,一人一人にそれぞれの物語がある.その一つ一つを見ようとするのか,しないのか.そこが担任としてのあり方として核になるところなじゃないかな・・・.

★<感想>
 最初にも書いたけど,僕は岩瀬さんの先生としてのあり方を感じたかったです.今回はそのあり方を感じることができる幸せな1日でした.一方,現場に戻ったらどうしようかと決断しなくてはならないなということが明らかになる日でもありました.
 子供達の過ごしやすさや安心感.これを生むには環境がとっても大切.そのために畳やベンチ.これらが岩瀬学級にはマッチしていた.僕も教室に畳を置いていたんだけど,こういうのってやっぱり派手.今の学校現場では導入がためらわれるもので,先生が誰でも導入できるっていうわけじゃないです.
 僕は,「幸せなこども時代」をサポートできる先生になりたいって思っています.また,先生誰しもがそうなれると思っていて,岩瀬さんのようなマインドをもった先生が増えていくといいなって思っています.
 だからこそ,誰しもができるようでない環境でやっていくのってどうかなって悩みます.    

でも・・・・.  

う〜む....
 
ここが悩みどころだなって.
まあ,あと1年あるので考えますw.
6−3の子達.めっちゃ可愛かったです.あの子たちはきっと,幸せな子供時代を過ごせているんだと思います.
6−3のみんなにも,改めてありがとうとお伝えください.