いわせんの仕事部屋

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「教師教育を考える会」のメルマガに記事を書きました。

メールマガジン、「教師教育を考える会」に記事を書きました。

「現場の教員が大学の教員になるということ」です。総花的になってしまいましたが、この3年を素直に振り返ってみました。

これを読んだ昨年度の修了生、井久保さんが、こんな感想を書いてくださっていました。感謝。

 

「学びと遊びの原体験の塗り替え」
私は去年これを体感しました。講義で最低限の知識や理論は紹介されました。
しかしそれを覚える、意味なく定着させようとする作業は全く無かった。
たとえば原体験の教育だったら教師が「構成主義と100回書きなさい」と言って生徒に書かせるかもしれません。
学校から離れてみると笑える。でも笑い事じゃなく、学校はこれに近いことをやっている。
では何をしたのか?
講義で紹介された関連文献に芋づる式にあたったり、その理論を現場にどう落とし込むか、仲間や教授と試行錯誤したり、実習でやってみて振り返ったり。たまにお茶を飲みながら話もしました。歌にしてウクレレで弾き語りもしました。そして何と言っても、実際学校に足を運んで授業をみたことも大きかった。

そうこうしているうちに、いつの間にか、それが使える知識になっていました。このいつの間にか、というのも大きなポイントな気がします。さらに次から次へと知るべきことが増えていき、次の学びにつながっていきます。

学ぶとはこういうことなのかな?という気づきと、学ぶというのはまだまだ分からないことが多そうだ!というワクワクを与えてくれる場でした。
その知識は、現場に戻って実践するときの裏付けとして自分を支えてくれています。だから当たり前を問い直して、新たな実践というチャレンジゾーンに踏み出せる。
また4月から楽しむぞ。

 

何より、ぼく自身が学びに学んだ3年間でした。

 

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メールマガジン「教師教育を考える会」77号
            2018年3月20日発行
http://www.mag2.com/m/0000158144.html
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現場の教員が大学の教員になるということ
         東京学芸大学教職大学院准教授    
                    岩瀬 直樹

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 77号は、岩瀬直樹さん(東京学芸大学教職大学院准教授)。

「教師教育初学者」としての丁寧な振り返りと分析です。                   (石川 晋)
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 私は22年間小学校教員を経験した後、東京学芸大学教職大学院の専任教員として3年間を過ごしてきました。大学教員としてどんなスタートを切ったのか。その中で何を感じ,何を考えたのか。何をして,何ができなかったのか、何を課題と感じているのか。このメルマガの執筆の機会に、素直に振り返ってみようと思います。

 

〇戸惑う日々
 
 教職大学院に来ると決まったとき、正直に申せば、現場での実践経験と、研修やワークショップでの講師経験、ファシリテーター経験で何とかなるだろう、と甘く考えていました。しかしいざ学卒院生、現職派遣の院生の皆さんの前に立ち、すぐに「教師教育者としての私の専門性とは何か?」ということを突きつけられたのです。大学院の授業をどうしたらよいのか、研究指導をどうすればよいのか、研究室運営はどうするのか、そもそも教師を育てるとはどういうことなのか。実践経験での自信が吹き飛び,自身の無力さに途方に暮れました。

 そこで私が先ず始めにしたこと、それは同僚、渡辺貴裕さんの授業を参観させてもらうことでした。彼の授業は、彼が研究してきた教育方法を活かした,知的にも方法的にも高度な授業でした。ジグソー法を活かしたグループワーク、論文を一読総合法で読む等、学問と授業方法がリンクしていたのです。生々しくて恥ずかしいですが、当時の私の参観メモを抜粋でご紹介します。(※は私の気づきメモ)

             *  *  *

 授業名「授業研究基礎」

1,講義「授業を研究する上での2つのアプローチ」

 ア,複数の事例の共通点に注目し、規則性を見出す。 法則定立的

 イ,個別の事例に則して、その意味を掘り下げる。  個性記述的

 「アでは規則性の中でそぎ落とされることがある。イでは具体的な出来事を基に『こんな意味があるのではないか』と考えることができる。実践記録は、アにあたる。」

2,算数の「重さ」で10分で模擬授業を考える。

※実際に自分で模擬授業をしてから(予想してから)文献を読む。仮説実験授業的でおもしろい!

※ファシリテーションをいれるといい。渡辺さんの問いで指名していくのは場に緊張を強いるなあ。例えば、「近くの人と話してみてください」とペアトークを入れるだけで違う。

3,実践記録を途中まで読む『体験から学ぶ算数』(算数 重さ)

「みなさんだったらどんな風に展開するかなあ」

1)2分、個人で考えて見てください。Think
2)テーブルで意見交換してください。Pair

※場が和んだ。
※自身で考えてみてから,記録を読むという構造化。

「続きを一人一段落ずつ読んでいきましょう。」
「感じたこと、気づいたこと、疑問を書き込んでいきましょう。」

※なるほど。自分がやってきたブッククラブ方式だ。一人のThinkの時間を重要視している。

※「答えがあるわけではないので気楽に書き込んでください」というインストラクションがとても大切。渡辺さん、優れたファシリテーター。

※院生は学び上手。モチベーションがあるのでグループワークが機能する。より高度なグループワークにいける。

「グループで紹介し合ってください。3分とります。」

※こういうときにぼくの授業では「ファシリテーショントレーニング」にしよう。関わりスキルを共有しておく。ファシリテーターに対してのフィードバックもする。

4,全体で発表 Shere

「発表のために番号を振ってください。どうぞ15秒でやってください」

「3番から行きましょうか」
「発言する人は自分でもグループでいい。その人の責任。」
「一人一つコンパクトに発言する。」
「発言したら座る。」

「グループのこと、しょいこまなくていいですよ!」

※笑 ユーモアは大事だねえ。

※インストラクションが切り分けられていてわかりやすい。このあたりのスキルは学校教員と同様。

 
・ここから発表
「それどんなところから思いました?」
 板書
「ほお、なるほどねえ」
「いい発表のしかたしてくれましたよねえ」

「批判的に読む、いいですねー」
「どこにでてくる?」「うん、うん」

「なるほど、おもしろいですね」

・まとめの話

※シェア大事だなあ。相づちも大事。関わりスキル。

※時間をどう短くするか。ミニホワイトボード使えるのでは?

※ここまでで35分。児言研の一読総合法だ!

※非常によく練られた授業構成。授業記録の読み方のレッスンをした上で課題で実践記録を読んでくるという構造。

※このアカデミックさが自分に必要。学級経営を学問的に整理していこう。

              *  *  *

 毎週、渡辺さんの授業を参観する中で、実務経験と大学での授業をどうつないでいくのかのヒントを得ました。学問知と教育方法をつなぐことで、学習者の学びの体験自身に意味が出てくることがわかったのです。

 目指したいロールモデルが身近にいて、徒弟制で学べたことは、本当に幸運なことでした。また他の先生の授業も参観したり、研究指導の場面に立ち会わせていただいたりと、同僚性の中で自身の専門性を少しずつ伸ばそうとしていきました。

 

 

○自身の授業を改善していく

 私は単独で「学校づくりと学級経営」という授業を担当していました。同僚から学んだことをもとに,実践経験と学問知をつなげた授業をしようと試行錯誤してきました。しかし学習者である院生の評価を捉え切れません。そこで2年目はティーチングアシスタント(TA)を募集し、4名の院生と一緒に授業づくりを行いました。前年度の受講者であった彼らからフィードバックをもらいながら授業デザインを検討し、授業終了後は、受講者も自由参加の「授業リフレクション」を行いました。私はそこにいないという設定で、自由に授業について振り返ってもらい、その対話をもとに次週の授業を考えたのです。なかなかヒリヒリした時間でしたが(苦笑)、小学校教員時代同様、学習者からのフィードバックでの授業改善を目指しました。自身の授業改善と共に、身をもって学生に示そうとも考えていました。とは言え、学級経営の学問的な整理、学級経営経験のない院生にどのような学びがよいのか等々、課題はまだ山積なのが現状です。

 6人の教員のTTである「カリキュラムデザイン・授業研究演習」では、「対話型模擬授業検討会」を一つの軸に進めてきました。対話型模擬授業検討会の詳細はここでは省きますが(渡辺貴裕、岩瀬直樹「より深い省察の促進を目指す対話型模擬授業検討会を軸とした教師教育の取り組み」
『日本教師教育学会年報』第26号、2017年9月、136-146頁を参照してください)、理論面を研究者教員の渡辺が中心に、実際の場づくりやファシリテーション面を実務家教員である私たちが中心に授業デザイン、実践していくことで、研究者と実務家の役割分担を試行錯誤することができました。ここでも同僚性の中で学べたことが大きかったと考えています。TTであったこと、授業前のミーティング・授業後の協働リフレクションの時間を設定されていたこと等、この教職大学院自体に,教員を育成する仕組みが備わっていたといえるでしょう。
 一方、私自身の課題、それはやはり研究面での弱さです。教師教育に関わる者自身が研究の力をつけることの重要性はこの3年間で痛感しています。教師教育者がどのような研究の力をつけるとよいのか。教職大学院で院生が身につけるべき研究の力とは何か。私自身も大学院で質的研究を改めて学びましたが、今後も向き合わなくてはならない大きな課題だと考えています。

 

○教え手の側から学び手の側へと

 ここまで書いてきて愕然とするわけですが、結局私も「教え手の側」から教師教育を考えてしまっているわけです。知らず知らずのうちに、現在の教員養成のシステムの中に、「なじもう」とする自分を見つけてしまっています。
 これから教育が大きく変わっていきます。
 これから先生になるにあたって、最も重要なことの一つは、「今の学校教育における前提の問い直し」だと考えています。現状の縮小再生産にならないためにも、前提にとらわれることなく、これからの教育を描いていく人になってほしい。

 教員養成も同様です。現在のシステムの問い直しが急務です。
 今のシステムは本当に「先生になる人を育てる仕組み」になっているのか。残念ながら、前提から問い直す必要を感じています。

 そのためにどうすればよいか、と3年間考え続けました。
 そこで辿り着いた暫定的な回答、それは様々な理論や実践に出会うことで視野を広げ、無意識に前提としている学校教育の問い直すことです。今、東京学芸大学教職大学院では、学卒1年生を中心にこの問い直しが起きています。実習校での葛藤のリフレクションに伴走したり、先進的な事例、例えば国立一中の井上太智さん(『授業づくりネットワーク』誌最新号参照)の参観に同行して,協同でリフレクションしたりする中で、自身の被教育者体験を含めた学校教育への問い直しが起き始めています。最初はほんの数人の動きだったのですが,その自立的な学びの姿は他者を刺激し、人数が増えていきました。研究室に本を借りに来たり、先進的な実践の参観に行ったり、対話の場を設けたり、この春には10人近くがオランダに視察研修に行ったりと、自然発生的、かつ自立的な動きが起きています。彼らの姿に日本の教育の未来を感じます。

 視野を広げる機会の提供と、そこをきっかけとする学習コミュニティーをサポートすることを通して、学びを促進すること。これが教師教育者にとって重要な仕事。教師になった後も、この経験は成長し続ける力、学びの場を創る力として生き続けるのではないでしょうか。

 そのために私がすべきことは結局、担任時代と同じく、ひとり一人の院生の学びへの伴走でした。それは極めて個別的なのです。「学び手の側」から教員養成を考えていく。ようやくそこに辿り着き始めている最近です。

 メルマガ71号の中川翔太さんは私の研究室の院生ですが、彼の成長に私が貢献できたとすれば、リフレクションの対話と共に、彼の学びに必要な人や場、本につないだことが一番大きかったと思います。後は彼が自身の「学びのコントローラー」で進んでいきました。頼もしい限りです。

 今はまだ結果としてコミュニティーができはじめた段階で、意図的に設計したわけではありません。自立的な学習者の育成とそのコミュニティーづくりを教師教育者がどう設計していくのかは大きな課題です。

 また、現職院生に対しては,まだ数人ですが、私が校内研究等で講師やファシリテーターをする場面を参観してもらう場を設けています。彼らからフィードバックを受けることで私も学びになりますし,モデルとして立ち続けることの重要性(とその大変さ)を感じています。

 最後に私がまだできていないこと、課題と考えていることを書いて終わりたいと思います。

 

1)場に立つ具体的な力をどう身につけていくのか

 一番の課題は、学生が学校現場に立つための具体的な力をどう身につけていくかということです。教科の専門性、具体的なスキル(関わりスキルや授業技術等)をどう身につけていくのか。現状、「経験から学んでね」という丸投げになっている感は否めません。対人援助職としての専門性をどう高めていくか、これはカリキュラム全体の改革も視野に入れる必要があるでしょう。

 

2)実習をどうデザインするのか。
 
 学生が葛藤を感じる大きな原因の一つは「学んだこと,実現したいことと実習校とのギャップ」です。本来は実習を担当する教員にも「教師教育者としての専門性」が求められますが、大学教員においてもこの専門性の議論が深まっていない現状、そのしわ寄せは学習者に向かっています。大学教員、学校現場の教師教育者の育成の検討(教師教育者の専門性を育てる仕組み)、理論と実践の往還の実質化が求められます。

 

3)教師になる人の「研究の力」とは何か。

 教職大学院に進学して身につけるべき「研究の力」とは何か。教師教育者における研究の力とはどのような力か。この課題に言及する力は今の私にはありませんので,課題としてのみ記しておきます。

 

4)学び・遊びの原体験の塗り替え
 
 私たち自身が学ぶことに没頭し、遊ぶことに没頭する。その原体験をもう一度学習者として体験し直していくこと。これこそが教師教育の原点だと考えています。学ぶってこんなに楽しい。人と一緒に探究することはこんなにおもしろい。遊ぶってこんなに豊かなんだ、という腹の底から実感する体験。この学び手としての喜びこそが、核になるのではないでしょうか。

 

 私自身が教師教育者の初任者として,何ができ、何ができなかったのか。
 まだまだ書き切れていないこと、教員養成の「中」に入って見えたことは山のようにあります。改めてまとめる機会をつくりたいと考えていますが、一番痛感したこと、それは「現場経験だけで教師教育者にはなれない」という当たり前のことです。では必要な専門性とはなにか?あらためてこの課題を深めていきたいです。

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 岩瀬さん、ありがとうございました! 大学院での教師教育者指導の経験がない私には、岩瀬さんのお話の細部について言及できないこともたくさんあります。ただ、岩瀬さんご自身が「教職大学院に来ると決まったとき、正直に申せば、現場での実践経験と、研修やワークショップでの講師経験、ファシリテーター経験で何とかなるだろう、と甘く考えていました」と述懐されているところに、重い課題が凝縮されていると感じます。現場で技量を発揮してきた教員が、大学で教師教育に関わっていくという事例はこれまでにも多数ありました。しかしようやく少しずつ認識が共有されてきているように、子ども達を育てるということと、専門職としての教員を育てるということとは、言ってみれば全く違う領域であるわけですね。 岩瀬さんの気付きや驚き、立ち往生が、今後の教師教育者養成の現場で解消されていく、そういう状況が生まれていくといい。私も私の立場からしっかり発言を続けようと思います。
 本文中にもご紹介がありましたが、私と岩瀬さんの対談が巻頭に所収された雑誌が刊行になりました。興味のあります方、どうぞお読みください。
 https://www.amazon.co.jp/dp/4761923911/

 いよいよ本メールマガジンも大詰めです。
次回、3月23日金曜日は、佐藤年明さん(三重大学教育学部教授・教職大学院兼担)
3月27日火  藤原由香里さん(京都府八幡市立美濃山小学校教諭、NPO授業づくりネットワーク副理事長)
3月30日金  塩崎義明さん(浦安市立高洲小学校教諭)
と続きます。お楽しみに!
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メールマガジン「教師教育を考える会」
77号(読者数2648)2018年3月20日発行
編集長:石川晋(zvn06113@nifty.com)
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