『子どもの思考が見える21のルーチン』
ある日の理科の授業の様子。
「雲の秘密を探れ!」探究プロジェクト。
「計画された」グループプロジェクトです。
授業のスタートです。
先生の方から「問い」を出して、子どもたちが「調べる」という授業ではなく、
子どもたち自身が自分たちで「問い」を見つけて、自分たちで探求していく。
そんな学習にしたい。
自分たちで「知りたい!」と思うから探究したくなる。
先生からの問いでは「調べさせられる」になりがち。
とはいっても、簡単に「探究したくなる問い」が浮かぶとは限りません。
というわけで、最初は観察から。
天気がよいので、やはり最初によく見ること(See)が大事だと、
「外に行って雲を観察しよう!」
と全員で外へ。
天気が良くていろいろな雲が見えました。
見ているうちにいろんなことが見えてきました。
「あ、あの雲うなぎみたい!」 とさわいでいた長い雲が、他の雲をみているうちに、どんどん小さくなっている。
おにぎりみたいな三角の白い雲。
一つだけで浮かんでいて、 「あの雲孤独だねー」 なんていっていたら、みるみる小さくなって消えてしまった!
雲が流れて行く方向と、今ボクたちが受けている風の方向が逆だったり。
絵の具でさーっと描いたような薄い雲がみるみる広がってきたり。
「毎日見ているはずなのに、こんなにちゃんと雲見たの始めて!」とAくん。
「雲って消えることがあるんだね」
「雲が消えたっていうことは、あそこは雨になって降っちゃったってこと?」
「空の場所によって雲の形が違う」。
「色も微妙に違う」
「形が変わっていくね」
「帰り雲見ながらかえろー」
「イワセン、この仕組みは解明しなくちゃですね」と我がクラスの科学者Dくん。
結局、その時間ずっと観察しちゃいました。
「おもしろかったー!」
でもいきなり疑問に行くのではなく、改めて思考のクールダウン。
教室に戻って4人グループで見たこと(see)、考えたこと(think)、不思議に思ったこと(wonder)で整理。
まずは、「見えたこと」、つまり観察したことだけを出し合います。
いきなり疑問にいかない。
なぜかというと・・・・・・・・・・・
というわけで、ついに出ましたね。
子どもの思考が見える21のルーチン: アクティブな学びをつくる
- 作者: ロンリチャート,カーリンモリソン,マークチャーチ,Ron Ritchhart,Karin Morrison,Mark Church,黒上晴夫,小島亜華里
- 出版社/メーカー: 北大路書房
- 発売日: 2015/09/24
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
ずっと翻訳が待たれていた本。
英語版をえいやーと買ったのですが、開いてみても「???」・・・
挫折しておりました。
DVDを見て雰囲気をつかんで、何とか実践している状態でした。
ハワード・ガードナーの「プロジェクト・ゼロ」で提案さ
様々な思考ツール群(この本では思考ルーチン)が紹介されています。
どれも汎用性が高く、授業で活用できます。
その中でもボクが現場で一番活用していた思考ルーチンが、「考えの導入と展開の導入のためのルーチン」=「see-think-wonder」です。ある学習会で、熊平セキュリティ財団の熊平美香さんから2012年に学びました。
ある対象を見たときにすぐに疑問や質問を考えるのではなく、
まず対象をじっとsee。観察することからスタートします。
思考のスローダウン。
例えば外に行って雲を見ます。
じっくり観察して、「見えること」だけをまず発散します。
何が見えますか?
・白い
・色の濃い薄いがある。
・色が薄い雲がある。
・つながっているものや切れているものがある。
・左から右へ動いて行っている。
・途中で形が変わった。
・消えた雲もある。
・様々な形がある。
・空の色も上と地面に近いところでは色が違う。
等々。
等々見えていることだけをひたすら出し合う。
ここに「Think」(思ったこと、考えたこと、気づいたこと)は入れないのが大事です。
まずじっくり観察。考えるのはその後です。
じっくり観察することで、気づきや考えが浮かんできます。
Seeが出尽くしたらThinkです。
「雲は風に流されているんだと思う」
「消える雲はおそらく雨になって降っちゃったんじゃないかな」
「高さによって形が違うのかもしれない」
様々な考えや気づき、解釈を交流します。そのときに大切なことは、
「どうしてそう思うの?」
「どこを見てそう思ったの?」
と根拠を尋ねることです。
そのうち、よく考えて答えるようになり、あてずっぽうや根拠のない意見を言わないようになる
ことが目指されています。
見たこと、考えたことを深めた後は、Wonder。
不思議に思うこと。
子どもたちが自分たちで「問い」を立てていくのです。
「そもそも雲って何でできているの?」
「なぜ浮かんだままなの?」
「いろいろな形があるのはなぜ?」
「雨を降らせる雲と降らせない雲の違いは?」
「どうやって発生するの? 消えた雲はどうなったの?」
「台風って雲のことなの?」
等々。
自分たちで立てた問いを探求することこそ、学び。
この思考ルーチンを使うと、観察と思考に基づいたより深い「問い」が立ちやすくなります。ただしそこに行き着くには何度も繰り返し使うことが重要です。
繰り返すことで習慣になり、文化になります。
これは実践していての実感です。
社会科でも理科でも国語でも。
様々な場面で活用可能な思考ルーチン。
ボクがこのルーチンをよく使ったのは、自分たちで「問い」を立てられるから、でした。
よく観察し、よく考えた上で問いを作るので、何度も繰り返していくうちによい問いがつくれるようになっていきます。
社会でグラフを見ても、
理科で溶ける様子を観察しているときも、
問いを自分たちで立てる。
繰り返しになりますが探究の第一歩。
子どもたちの問いからカリキュラムをデザインする。
そんなカリキュラムが増えていくといいなあ。
この本には、このほかにも優れた思考ルーチンがたくさん紹介されています。
このような汎用性のある思考ツールは、学びの対象の魅力を上手に引き出す機能がありますし、なにより学習者自身が他の場面で応用可能。
ツールありきではなく、上手に道具として使いたいなあと思います。
この本、オススメです。
邦訳が出て本当にありがたい。