いわせんの仕事部屋

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学級づくりを考えるシリーズ。関係性のつなぎなおし。

若い先生から、学級経営について相談を受けました。子どもの関係が固定化して、小グループごとに対立している、と。
個人的に返信しようかとも思ったのですが、もしかしたら他にも同じような悩みを抱えている人もいるかも、と思い、せっかくなのでここにまとめて返信とします。

 

アメリカの経営学者、チェスター・バーナードは組織を成立させる3要素として3つあげました。この3つが円滑だと組織はうまくいき、一つでも欠けると組織がうまくいかない。その3つはなんだと思いますか?

学級もそうだし、スポーツチームもそうだし、職員室もそう。どの組織にも共通する大事な要素が3つあるそうなんですよね。
この3要素は、自分の学級を分析する時の視点にもなりますし、職員室がうまくいってるかなを測る視点にもなるし、スポーツチームがうまくいってるかな、を眺める視点にもなります。

単語で3つ。ちょこっとメモしてみてください。


バーナードはこの3つをあげています。

・共通目的(ゴールやビジョン)

・貢献意欲

・コミュニケーション

1つ目は共通目的。ビジョンやゴールと言い換えることもできそうです。これがあるから組織として集うわけです。私たちの組織は何を目指しているのか。私たちの組織にはどんな社会的意義があるのか。その目的は「わたし」とどうつながっているのか。

2つ目は、貢献意欲。この組織がよりよくなるために貢献したいとか、このチームが目指してる共通目的に向かえるように貢献したいという貢献意欲がそれぞれのメンバーにあるかどうか、です。

3つ目はコミュニケーション。その組織の中でコミュニケーションの豊かさはどうか。コミュニケーションの質が高いかどうかで、その組織が良い組織がどうかがわかるですって。言われてみればその通りですよね。対話的な関係が築かれてる組織はやっぱりよい組織。言いたいことが言い合える、何を言っても大丈夫を思える心理的安全性はこのコミュニケーションの質にかかっています。

この三つで組織がうまくいってるかとか、良い方向に進んでるかを分析することができるようです。共通目的がみんなで共有されていて、そこに対する貢献意欲がそれぞれのメンバーの中にあり、そのメンバー間のコミュニケーションが豊かであるかどうか。


その視点で教室をもう一度眺めてみましょう(ついでに職員室も・・・・)。

 

ちょっと古いですが、ラグビー日本代表はまさにこの3要素の質が高そうに見えました。明確な共通目的があって、それぞれのそこへの貢献意欲ものすごく高く献身的で、しかもコミュニケーションがめちゃくちゃ豊かなんですよね。
教室もこの視点で見ることができます。自分のクラスは共通目的あるけど、そこへの貢献意欲はないな・・・この目的そもそも担任の目標になってるだけかも…とか、コミュニケーションは結構してるけど、そもそもどんな学級になると素敵だとか、そこに自分はどういたいなどの共通目的がないなとか。職員室も同じように分析してみることができそうです(ああ耳が痛い)。

学級でもう少しわかりやすく翻訳してみましょう。

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まずはポジティブなコミュニケーションを増やす。貢献意欲のところは、お互いの成長に貢献しあったり、学びあったり、助けあったりする関係性を育んでいこうということ。三つ目は共通目的。こんな学級になるといいよね。こんなコミュニティになるといいよねっていうイメージを当事者である子どもと一緒に共有するということ。この三つが学級を考えていく上で、この視点があると見えてくることがあると思います。
図にするとこんな感じですよね。共通目的があり、そこへの個々の貢献意欲が高く、そこの間のコミュニケーションはとても豊かであるということ。
それを支える、一緒に進んでいく人が、先生と言われる人の役割っていうふうに、僕は考えています。
じゃあ、そのために、具体的な一歩目、どこからいったらいいのか。共通目的からスタートしたらいいのか。貢献意欲を育てるところからスタートしたほうがいいのか。コミュニケーション豊かにするところからスタートしたほうがいいのか。

どこからスタートするのがいいと思いますか?

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組織論から考える ワークショップデザイン

組織論から考える ワークショップデザイン

  • 作者:北野 清晃
  • 発売日: 2016/07/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

まず手を付けるべきは、コミュニケーションの量を増やすことです。豊かなコミュニケーションが成立してない学級は、目的を共有することも、そこへの貢献意欲を育むこともできません。

組織づくりの第一歩は、ポジティブなコミュニケーションの圧倒的な量を増やすことです。それは休み時間だけでは無理なので、日々の授業の中でも圧倒的にコミュニケーションの量を増やすことが学級づくりの第一歩になります。

量がたまるとどこかのタイミングで質的な変化が起きます(量質転化の法則)。そのためには、まずは量です。
僕ら教員って最初から質を求めてしまいがちです。
しかし、いきなり学級目標を!とか、いじめはいけません!の話なんて重い。
本音を言えるわけがありません。たくさんのコミュニケーションが貯まってからこそ、少しずつそういう深い話もできるようになっていくのです。

これは大人で考えるとわかりやすい。初めて出会った人に人生の悩み相談とか絶対できない。「最初はどんな食べ物好き?」とか、「そんな映画好きなんだ。俺と同じだ」みたいな話を積み重ねていく中で、「実はさ」って話が少しずつできるようになっていく。
蛇足ですが、それは保護者との関係もそうです。一番最初に保護者と話をするのが子どものトラブルのときだと、仲良くなるの難しいですよね。でも日常的にたくさんのポジティブなコミュニケーションを取っておくと、「実はこんなトラブルがあったんです」「先生、大丈夫ですよ。それぐらいお互い様ですよね」と言えるような関係性ができる。まずは量を増やすということです。

では量を増やすためにどうすればよいか?

まずは関係性がまざるきっかけをつくることです。専門的にはリワイヤリングと言います。関係性のつなぎ直しです。

子どもの人間関係は(大人もそうですけど)、実はものすごく固定化されています。
登校したら、仲良しの数人とおしゃべり。授業中は黙って聞いている。休み時間のトイレもその数人と一緒に。授業中また黙っている。休み時間はそのメンバーで遊ぶ。給食のときだけグループにして、他の子ともちょっとしゃべる。今はその時間すらない。掃除は黙ってやる。放課後その友だちと遊ぶ。結局、数人の人としかコミュニケーションをとっていない、ということが往々にして起こっています。
教室のコミュニケーションは、このように小グループのクラスター化しているんですね。偏っているのです。
そこを自分で超えていくのは、年齢が上がれば上がるほどリスクが高い。関係性を編みかえてくことになるので、もしかしたら友達に何か言われるかも・・・と不安になる。それを突破していくのって結構大変です。
僕らは、どんどんいろんな人と関係広げようねって気楽に言うけど、今の関係が壊れるかもしれない。関係広げるのってものすごく大変。大人だってそうです。

職員室で、わざわざ他の学年のところに行って、あまり話したことのない同僚とおしゃべりに、なんてあまりしないのが一般的です。やっぱり不安だから、リスクだから行かない。普段よくコミュニケーションとる人に固まっていくのは、人の習性です。

人間関係の広がりは自然発生しにくい。そう思っておいてよいと思います。本当は自然発生していくといいなと思いますが、最初は難しい。
ですからリワイヤリング(繋ぎなおし)のきっかけをつくるのは、担任の大切な役割なのです。いろいろな関係でたくさんかかわってみる。うっかり関わってみたら「けっこう悪くなかったぞ」「意外とたのしかったぞ」という経験が、人とのコミュニケーションのハードルをちょっとずつ下げていきます。ですからポジティブな経験の中でいっぱい混ざるって経験を用意しましょう。

ゴールイメージとしては、もし4月に学級が始まったとすると、それぞれの子が、1ヶ月後に教室を見回したら、「あれ?きづいたら全員としゃべったことあるな」とか、「全員となんか一緒にやったことあるわ」って思えると、よく混ざったなって感じです。

「混ざりましょう」って言っても混ざらないので、うっかり楽しいことで混ざっちゃったという経験ができる機会を毎日たくさん用意しましょう。プロジェクトアドベンチャーに代表されるアクティビティの引き出しを持っているといいなと思います。

席替えも大事ですよね。今担任に戻ったら、毎日席替えして、やがてフリーアドレスにするかも!

iwasen.hatenablog.com

 

教育心理学者の鹿毛さんは学級の「空気」について、

教室や学校が持つ「空気」は、それぞれに固有の文化や風土を背景として、その場に存在するメンバーの振る舞いを規定し彼らの状態レベルの動機づけに影響を及ぼすことになる。もちろん場に特有な文化や雰囲気は固定的なものではない。それらは、場とメンバーによる現在進行形の相互作用を通してダイナミックに創出されていく。 (鹿毛 2013)

と述べています。ではどうすればよいでしょうか?

日常的なコミュニケーションと相互に関わりあう心地よい体験の積み重ねによって相互理解が深まるとともに信頼感が互いに構築されることによって、自分の存在が受け入れられているという感覚が促され、その場が当人にとっての「居場所」となる。     (鹿毛 2013)

学習意欲の理論: 動機づけの教育心理学

学習意欲の理論: 動機づけの教育心理学

 

 

ここで大切なのは、日常的なコミュニケーションと相互に関わりあう心地よい体験の積み重ね」です。先生が説教したから、語ったから、信頼感が育まれるわけではなく、そこにいるメンバー同士が、心地よいコミュニケーションの積み重ねをすることが重要です。

「より多くの人と心地よいコミュニケーションをとる機会のデザイン」、だからこそ関係のつなぎ直しが必要なのです。

 

一番ステキだと思うのは、「たっぷり遊ぶ経験が日常にあること」なんですけどね。


いつかに続く。