魅力的な本が出版されました。
ようこそ,一人ひとりをいかす教室へ: 「違い」を力に変える学び方・教え方
- 作者: C.A.トムリンソン,山崎敬人,山元隆春,吉田新一郎
- 出版社/メーカー: 北大路書房
- 発売日: 2017/03/17
- メディア: 単行本
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待望の翻訳です。(友人の秋吉理恵子さんによるとチョー有名人だそう)。
ボクはゲラの段階で下読みの協力をしました。
この本の核は、「Differentiated Instruction:DI」。
この「Differentiated」を「一人ひとりをいかす」と訳したのが見事。
端的に言えば、「学習の個別化」の具体が書かれている本です。
ようやくこの本が日本語で読めるようになりました。
これを読むと「学習の個別化って具体的にどうやればいいんだろう?」という疑問から実践への道筋が見えるはずです。
どうしてもボクらは「どうやったらできる?」と方法に意識が行きがちですが、「一人ひとりをいかす教え方」(Differentiated Instruction)は方法ではないといいます。
「〜それは(一人ひとりをいかす教え方:引用者注)教えるときに自分がすることすべてと生徒が学ぶときにすることすべてについての考え方」(p181)なのです。言い換えると、
「〜一人ひとりのそのときの実態から始めることが大切だと主張する、教えることと学ぶことについての考え方」(p203)です。
この考え方というところはとても重要です。
これからの学校での学び方を考える上での出発点にしようということ。
実は私たち一人ひとりは学ぶペースも、得意な学び方も、学習履歴も、興味関心も違います。とはいっても一人ひとりの違いに対応していたら授業は成り立たないのではないか?ボクらはそう思ってしまいがちです。
これまでの日本の学校教育は一斉授業が主でした。石井英真さんがいうように「練り上げ型の創造的な一斉授業」が理想とされ追求されてきたのです。この豊かな蓄積がこの国の教育を長く支えてきました。
質の高い一斉授業について、「かつては教師のアート(卓越した指導技術)と強いつながりのある学習集団により、クラス全体で考える意識をもって、発言のない子どもたちも少なからず議論に関与し内面において思考が成立していた」とも石井さんは述べています。
「アクティブ・ラーニング」を生かしたあたらしい「読み」の授業:「学習集団」「探究型」を重視して質の高い国語力を身につける (国語授業の改革)
- 作者: 「読み」の授業研究会,阿部昇,加藤郁夫,永橋和行,柴田義松
- 出版社/メーカー: 学文社
- 発売日: 2016/08/31
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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(この本に載っている石井さんの論文はおすすめ。ではこれからの授業は何を大切にしていくのかが明快に述べられています。これ読むためだけに買っても惜しくない)
しかし多くの授業では、ある子にとってはわからないまま進んでしまったり、ある子にとっては既にわかっていることを聞く退屈な時間、ということが起きています。 今の小学校の教室は、実はやり直す機会の少ない場です。授業が前学年、いや前時までのことを「みんなが理解している」という前提で進んでいくことが多いのですが、ちょっと考えてみればわかるように、これはフィクションに過ぎません。
算数を例に取れば、四則計算の段階で困っている子、今日の学習内容はとっくに終わっている子、そもそも「座って聞く」という学び方が苦手な子、一人一人の学び様相は本当に様々です。学ぶペースも、学び方も、興味・関心も人によって異なっているのは、考えてみれば当たり前のことです。
実は私たち教員は薄々そのことに気づいていながら、進めざるを得ません。やり直すチャンス、戻るチャンス、進むチャンスが保証されていない一斉授業は、「標準ペース」で進んでいくのです。
そのペースに乗り切れなかった子は、緩やかに学習から遠ざかっていきかねません。格差をなくすための学校が格差を生んでしまう矛盾がおきるのです。 学習は本来個別的で、一人一人ペースやスピードが違うものです。
一斉授業自体が問い直される機会は、1980年代の愛知県東浦町立緒川小学校に代表される個別化・個性化教育のような例はあるものの、あまり広がりませんでした。
しかし、本当に一人ひとりの違いに対応する学び方は不可能なのでしょうか?
それはできる!というのが苫野一徳さんがいう「学習の個別化・協同化・プロジェクト化の融合」ですし、この本で提唱されている「一人ひとりをいかす教え方」です。
詳細はぜひ本を手に取ってみて下さい。
この本は支えとなる考え方と原則がわかりやすく整理されていると共に、具体的な実践事例や方法も載っています。特に7章の「課題リスト」(Agendas)は、ボクが現場で実践してきたことにきわめて近く(やはり先人はやっているものですねえ…)、「複合的プロジェクト」(Complex Instruction)、「周回」(Orbital Studies)は、これから軽井沢風越学園のカリキュラムを考えていくときの参考になりそう。ブッククラブも紹介されていて、リーディング・ライティングワークショップも視野に入っているのがわかります。
一人ひとりの違いをどうアセスメントするかについても具体的なで提案があり、また、「いきなり大がかりに始めるのは難しいなあ…」という人のために9章の182頁からは「小さく始める」方法まで提案していて、至れり尽くせり。
現場のことをよくよくわかっているからこその親切なつくりです。
具体的な教室での実践をイメージしながら読了。実現したいことが山のように出てきました。日本語で読めることに感謝感謝。
この本と併せて読むとその価値がさらによくわかります。
それにしても吉田新一郎さんの紹介する本には外れがないなあ。
しみじみ。
目次は以下の通り。
まえがき
第1章 一人ひとりをいかす教室とは?
一人ひとりをいかす教室の特徴
さまざまな学校からのポートレート第2章 一人ひとりをいかす授業を実践するための八つの原則
一人ひとりをいかす教室の本質~八つの原則
一人ひとりをいかす教室をつくるための三本柱
一人ひとりをいかす教室の哲学第3章 学校でのやり方と、そもそも誰のためにしているのか
を再考する
教育の変化
教えることと学ぶことに関する現時点での四つの理解
私たちが教えている生徒のことについて考える
私たちが知っていることとやっていることのギャップ第4章 一人ひとりをいかす教育を支援する学習環境
学習の三角形としての指導
健全な教室環境のさまざまな特徴第5章 よいカリキュラムは一人ひとりをいかす授業の基本
「ねらいのはっきりしない」授業
持続的な学習のための二つの重要な柱
学習のレベル
意味のある方法で到達基準を扱うこと
学習レベルの典型例
カリキュラムの要素
学習のレベルとカリキュラムとを合わせること
カリキュラム-評価-教え方の関連第6章 一人ひとりをいかすクラスづくりをする教師たち
一人ひとりの「何を」「どのように」「なぜ」いかすのか
知識ないしスキルに焦点を当てた一人ひとりをいかす教え方
概念ないし意味を基本に据えた一人ひとりをいかす教え方第7章 一人ひとりをいかす多様な教え方
コーナー
課題リスト
複合的プロジェクト
周回第8章 一人ひとりをいかすもっと多様な教え方
センター
多様な入り口
段階的活動
契約
三つの能力
一人ひとりをいかす学びを可能にする他の方法第9章 一人ひとりをいかす授業を可能にするクラスづくり
学校のイメージ
まずは始めてみよう
長いつき合いを覚悟する
具体的な注意点
サポート体制を構築する第10章 一人ひとりをいかす教室づくりの促進者としての
リーダーたち
学校変革にまつわるこれまでの経験と研究成果
初任教師についての一言あとがき
資料 一人ひとりをいかす授業の計画づくりをする際のツール