いわせんの仕事部屋

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お茶の水女子大付属中 参観記

いやあ、今日は本当に幸せな1日だった。

今日はお茶の水女子大学附属中学校渡辺光輝さんの授業を参観させていただいた。かねてから自分と同じ「匂い」を感じていた渡辺さん。今回突然のお願いにもかかわらず快くお引き受けくださり、研究室の院生の方々ら6人と一緒に2時間参観させていただいた。
一番の感想は「幸せな気持ちになった」だ。ボクは授業を参観するときに、そこに子どもとして座って授業に参加している自分を想像する。子どもである仮想の「ボク」は、本当に楽しそうに授業に参加していた。
そして生徒の皆さんが幸せそうに語り合う姿を見ていて、ボクも本当に幸せになった。


授業は、「わたしの素〜「本との出会い」のこれまでとこれから〜」。これまでの人生で出会った本、大好きな本、自身の人生に影響があった本など「わたしの素」になっている本を3冊選ぶ。その選んだ3冊についてグループごとに交流する授業だ。


グループごとに「徹子の部屋」のイメージでトークショーを行う。一人一人がゲストになり、グループのメンバーが「徹子役」(ファシリテーター)として、ゲストの「わたしの素」を引き出していく。

中3の皆さんは自身の「素」となった本について本当に嬉しそうに語っていた。思い入れのある本にはエピソードが埋め込まれている。本との出会い、その頃に体験したこと、本とのつながり。グループのメンバーはいかにゲストの魅力的なエピソードを引き出すかを「質問」でチャレンジしていく。全3時間の単元なので質問をブラッシュアップしている時間はあまりない。
そこは渡辺さんが周到に準備されていて、「質問カード」が各グループに配られている。
例えば、「具体性を引き出す質問」、「記憶を引き出す質問」、「感情・イメージを引き出す質問」等々。それぞれのカードに質問例が載っている。
これは、ボクがブッククラブの実践で使っていた「質問例集」に近いものを感じた。
http://d.hatena.ne.jp/iwasen/20140121
このカードを手がかりに質問をしていくわけだが、話し手に
「話したいストーリー」
があるので、次々に魅力的なエピソードが飛び出してくる!
ボクは生徒の皆さんのトークについつい引き込まれていった。うっかり質問したくなるくらい。ある生徒が語っていた『遠い町から来た話』は、帰り道で思わずアマゾンで注文してしまったほど引き込まれた。院生の皆さんもやはり参加したくなった!と言っていた。それくらい豊かな学びの場だった。こんなステキな授業を見たのはいつ以来だろう。
中3男子が「オレ、小学校の頃、黒魔女さんシリーズ読んでたんだよ−!」と嬉しそうに語っているのも何ともステキだった。


1時間はあっという間に過ぎていった。
「続きはまた次回」の言葉に「えー!」という声が出たところに、いかにいい時間だったのかがわかる。ボクももう終わりとは信じられない!というぐらい時間が短く感じた。
たった3時間の単元(今日は2時間目)でここまでできることに素直に驚いた。もちろん日頃の授業での積み重ねがあるからこそだろうけれど、その時間で深められるような丁寧な準備。その丁寧さが渡辺さんの実践を支えているのだろう。そしてきっとその準備はとても楽しいはずだ。(ボクもそうだったから 笑。渡辺さんほど丁寧じゃなかったけれど・・・・)
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以下印象に残ったことをざっくばらんに。
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・場の雰囲気がとてもやわらかく、もはやワークショップ。トークショーというフレーム、トーキングスティック(ぬいぐるみ)や、本の紹介用パネル、わざわざゲストの人は一旦退出して拍手で入場、と場を楽しむ仕掛けがふんだん。生徒の皆さんもそのフレームを楽しんでいた。時間が来ると、渡辺さんは「CM入りました-」笑。こういうユーモア、ステキだなあと思う。
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・トーキングスティックを回していってグループのメンバーが交代で質問するというルールになっていたのだが、回していないグループもあった。渡辺さんが「ぬいぐるみいる?どう?」と1回目と2回目の間に問いかけると、「いるー!」「いやされるー」。「じゃあ使おうか」。何気ないやりとりだが、この学習を共同で作っていくという渡辺さんの立ち位置が表れているなあと感じた。「共同修正」は授業はもちろん、学級経営でもキモになるとボクは思っている。一緒に作っていくもの、なんだと考えているからだ。
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・この授業は中学生に限らず、大人も十分楽しみ、深まる授業だ。ボクは「いい学びは年齢を問わない」を信念にしてやってきたが、この授業はまさに!だ。完成度の高い、豊かな学びのワークショップ。授業後渡辺さんに「授業のこだわりはなんですか?」とお聞きしたら、「大人に通用しないことを子どもにやるのは失礼だから、大人にやらないことは子どもにしない」とおっしゃっていた。この共通点は本当にうれしく、そしてそれを高い次元で実現している渡辺さんはすごいと改めて感じた。
渡辺さんはきっと授業を構想するときに「その授業に参加している自分」を見ているのではないか。自分もやりたい学び。だからこそ、生徒の皆さんの様子をあんなに嬉しそうに観察されていたのだろうなあと想像した。「自身を学び手として設定して授業や学級を考える」という視点は、ボクたちにとって一番大切なのかもしれない。
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・4時間目はこの授業の導入だったのだが、ボクもゲストとして生徒の皆さんの前でトークをさせていただいた。すごく緊張して汗が止まらなかったが(笑)、とても楽しい時間だった。話しているうちに「これも聞いてもらいたい」ということが湧き上がってくる自分がおもしろい。「ああこれを話したい」というときにそれを引き出す質問が出てくるか、違う方向に行ってしまうか、ということが起きるということも実感できた。
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・この授業を貫いている問いは、「いい質問(インタビュー)とは?」。この場合いい質問は、どういう質問だろう。①インタビュアーが聞きたいこと ②ゲストが話したいことでは質問が違ってくる。ゲストの主訴を意識して質問を組み立てるのもおもしろそうだ。作戦会議の作戦の方向性を定める感じだろうか。
そしてトークショーというフレームでは「お客さん」がいる。
お客さんを意識するかどうかで質問が変わる。
そのあたりを深めていってもおもしろいなあと感じた。そのためには、例えば、ゲストとインタビュアーがペアでトークショーを行い、他のメンバーは「お客さん」役にしてはどうだろう。金魚鉢の要領だ。インタビュアーにとって「お客さん」の聞きたいことはなんだろう、という視点が生まれて、いい質問についての洞察が深まりそうだ。トークショーをメタに見る視点も生まれる。これはボク自身が、生徒の皆さんの前で渡辺さんにインタビューしたときの実感から生まれたアイデア。観客を意識するとゲストとしてもインタビュアーとしても質問や話すことが変わっていく。その意味ではトークショーという場は豊かな可能性が含まれている。
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・一つだけ欲を言うと、7〜10分という時間はあまりにも短い。これは中学であるという現実的制約上やむを得ないのだろうけれど、もっと長い時間設定にしたいなあと思う。「いい質問とは?」を深めるためには、もう少し質問する機会が必要に感じた。トークショーとしては「いよいよここから」というところで終わってしまう班もあった。
また、時間に余裕があればどこかの班のプロトコルを読んで、生徒自身が質問の機能を分析してもおもしろいなあと思ったが、これは欲張りすぎか。いずれにせよ「語りきる」みたいな時間ができるとホントに幸せだろうし、生徒の皆さん同士のつながりもより生まれただろう。そう、この授業は「本」を媒介に生徒同士がつながり合うデザインの授業でもあったのだ。ああ、やっぱり短くても1人20分はほしいなあ。
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・昼食を取りながら院生の方々の質問にも丁寧に答えてくださり、ただただ感謝。ここには詳しく書かないが、評価の話や、「いらないものを捨てていく」という授業づくりの話、「やらなきゃいけないこと」と「やりたいこと」の関係など、院生の皆さんには今後の支えになる深い話をしてくださった。飾らず本音で話してくださるので、院生も激しくうなづきながら聞いていた。ああ、ありがたいなあと思う。
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・ボクが大学生の頃、東京学芸大学の平野朝久先生は、バスをチャーターして全国の小学校に連れて行ってくださった。「いい子どもの学びをたくさん見ておいてほしいんですよ」とニコニコしておっしゃっていた。ボクはその時が教員としての原体験になっている。「すべての子どもには力がある」「すべての子どもは学びたがっている!」を具体的な姿で知ったことで、自身の信念になった。
今回、渡辺さんの授業を院生と共有できたのは、まさにあのときと同じだ。いい学びを実際に見て体験すること。これ以上の教師教育はもしかしたらないのかもしれないなあと思う。中学志望の院生は、未来の可能性を感じたと思う。ボクも未来を感じた。
院生の方々には、自主ゼミでぜひ実際にやってみて「学習者」を体験してほしい、それによって今日の学びがより深まるはずだ。


こんなにステキな授業を見たのはいつ以来だろう。本当に幸せな1日でした。これからも足繁く通わせていただこうと思います。本当にありがとうございました。


あ、一つ書き忘れましたが、
渡辺さんの授業に「持続可能性」を感じました。
特別なんだけど特別じゃない。
先生の肩に力が入っていないし、無理してない。自然体。
生徒にも過度に要求しない。生徒もまた自然な学びの場。
この自然さと「続けられる感」って今の多くの学校教育の実践にかけているなあと。
そしてなにより、両者の「やりたい!」が詰まっている授業でした。
これが授業の原点だと思うわけです。
渡辺さんの本への愛情を感じました。
「あこがれにあこがれる」ですね、渡辺さん。