知らない町。
仕事柄、車で遠出することが増えた。
ナビを頼りに初めて行く町へ向かう。
時間に余裕を見て出発するので、目的地が近づいてきても1時間ぐらい時間があることも多い。
そんな時、ボクはナビの案内を取り消し、初めての町の中をゆるゆるとドライブする。
できるだけ生活感のある狭い路地へ。
ボクはずいぶん昔から、
初めて訪れる小さな町で人々の暮らしを感じる風景を見ると
胸がギュッと詰まる感じがする。
風に揺れる洗濯物。止められている自転車。軒下につるされた大根。
網戸の奥から聞こえてくるテレビの音。
やっているのかどうかわからない小さな商店。
住んでいる人にとっては当たり前の日常。
でもボクにとってはいつも初めての光景だ。
ああ、ボクの全く知らないところで、
ボクの全く知らない人が、
毎日当たり前のように生活している人がいる。
ボクの全く知らない暮らしがここにあり、
ボクは一生それを知らないままでいる。
たまたま今日はここを通りかかってその一部を垣間見たけれど、
これも全くの偶然であり、一生出会うことのない風景であったかもしれない。
ここに住んでいる誰かは、どんな暮らしをしているんだろう。
どんなことで喜び、どんなことで哀しんでいるんだろう。
今日は何を食べるんだろう。
きっと日本中に、世界中に、そこに住んでいる人の「当たり前」が無数に存在していて、そのほとんどとボクの人生は交わらないまま、お互い知らないまま、流れていってしまう。
同じ時代に生きていても、そのほとんどはお互いなにもわからないのだ。
その事実に圧倒されて、なぜか泣きそうになる。
ボクはついつい、いろんなことを「わかろう」とする。
でもそのほとんどはわからないのだ。
クラスのあの子の後ろの暮らしにどんな「当たり前」があるのだろう。
わからないとあきらめるのではなく、
でも、やっぱりわからないんだ、ということを何度も味わうように、
小さな町を訪れる度に、ついつい車をゆるゆると走らせてしまう。