いわせんの仕事部屋

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学習者中心の学び実践編の決定版

小学生の娘が熱を出し、予定をキャンセルして看病。

時間ができたのでメモをとりながら熟読しました。

「学びの責任」は誰にあるのか: 「責任の移行モデル」で授業が変わる

「学びの責任」は誰にあるのか: 「責任の移行モデル」で授業が変わる

  • 作者: ダグラスフィッシャー,ナンシーフレイ,Douglas B. Fisher,Nancy E. Frey,吉田新一郎
  • 出版社/メーカー: 新評論
  • 発売日: 2017/11/17
  • メディア: 単行本
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 吉田新一郎さん翻訳の新刊。

 

吉田新一郎さんと知り合ったのはずいぶん前になります。

2002年、ぼくは教員10年目(32才)で埼玉県の長期研修派遣の試験を受けて奇跡的に合格。東京学芸大学の平野朝久先生の研究室に派遣していただきました。

総合的な学習の研究での派遣だったのですが、いろいろな学校に参観に行っているうちに、「新潟県上越市立高志小学校」に出会います。当時注目を浴びはじめていたワークショップという言葉。校内研究にはじめて持ち込んだ学校ではないかと思います。この学校に惚れ10回以上通うこととなりました。そして勝手にレポートを書きました。

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http://www1.s-cat.ne.jp/iwase/upfile/kyoudoubunka.pdf

 

勝手に書いたレポートだったので読み手は誰もいなく・・・・・寂しいので、ウェブダイアリー(懐かしい響き。ブログができる前ね)にアップしておいたのでした。

ある日一通のメールが。「とてもおもしろかった 吉田新」と。ちょうどそのとき、

会議の技法―チームワークがひらく発想の新次元 (中公新書)

会議の技法―チームワークがひらく発想の新次元 (中公新書)

 

 を読んでいた時。「吉田新」という文字に見覚えが。

「もしかして、この本を書いた??」とお思いお返事したのがやりとりのきっかけとなりました。信じられないようなシンクロ

(昨日も信じられないようなシンクロがあり1月にお会いすることに。アウトプットしてみるものです。)

それが2004年です。「このレポートはおもしろいから出版のプロジェクトを立ち上げよう」と吉田さんから提案を受け、2人で企画書をつくり、10社以上の出版社に連絡しましたがほとんど門前払い。全くの無名だったのでやむを得ません…。

半年近くアプローチし続け、ようやくPHP新書からOKをもらって執筆開始。吉田さんと、ものすごい数のメールのやりとり(2人メーリングリスト。最終的には1000を越えました)を経て、『効果10倍の学びの技法』を2007年に出版しました。

効果10倍の(学び)の技法 シンプルな方法で学校が変わる! (PHP新書)

効果10倍の(学び)の技法 シンプルな方法で学校が変わる! (PHP新書)

 

(↑絶版で、いまやAmazonで5000円…再版したいな−)

 

その頃に並行して取り組んでいたのがライティング・ワークショップのプロジェクト。これも2006年スタートで、何人かの仲間と実践研究を始めました。2年間のプロジェクトを経て、2008年に本を出版。すごい大変だった…(2年間のプロジェクト、メーリングリストは2000を越えました…思い出すだけで苦しくなる…我が家で合宿したことも今ではよい思い出。甲斐﨑と盟友になったのもこのプロジェクトのおかげ)。

作家の時間―「書く」ことが好きになる教え方・学び方(実践編) (シリーズ・ワークショップで学ぶ)

作家の時間―「書く」ことが好きになる教え方・学び方(実践編) (シリーズ・ワークショップで学ぶ)

 

 吉田さんから学び、彼とのプロジェクトで実践してきた中から学んだことが今の自分の核になっています。

ライティング・ワークショップ、リーディング・ワークショップをはじめ、『一人ひとりをいかす教え方』『PBL』と経て、これらの学びに通底する実践的な指南としての今回の本。 学習者中心の学びの実践における決定版ともいえる本です。

久々にノートにまとめながら丁寧に読みました。

 

4段階の「責任の移行モデル」がこの本の核心です。

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この4段階は順番があるのではないというのがポイント。この4段階は同時に起きるのです。先生の役割が明確に示されています。何より一番大事なことは、

効果的な教え方は、教師が段階的に自分のすることを減らし、生徒たちが学習の責任をより多く担うように移行することである。生徒たちが段階的に寄り多くの責任を担うこのプロセスによって、有能で自立した学習者になっていくのである(p5) 

端的に言えば、 自立的な学び手になること、です。

 

ついつい学習者中心の学びとなるとこうなりがち。↓

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教師は何もせず丸投げというやつ。あるあるー。宿題なんてまさにこれ。

 

こういうのも考えられます。

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「ワークショップ型の学びしてます!」「作家の時間やってます!」というとき、実はこういうのが多かったりします。最初にミニレッスンはするけど後は丸投げ…楽しそうだけど成長しない…個別学習のところが「協同学習」になっても同じです。

 

筆者はこれもダメと言っています。

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子ども同士の「協働」がデザインされていない。『学び合い』に精通している方はこれは納得できるのではないでしょうか。

 

この本の特徴と言えば「教師のガイドする指導」です。

学習者中心の学びを目指している実践者にとって、教師はどのような役割を果たすのかは悩みどころ。この本では教師の役割を示しています。詳しくは本書を!ここだけでも買う価値あり。これからぼくらが身につけていく専門性はこれが大きな柱の一つだと思うわけです。

 

協働学習の項では、協同学習の「基本的なグループワーク」と区別して、建設的なグループワーク」を提案しています。協同学習は社会的なプロセスに焦点が当たっていますが、それだけでは不十分。協同学習では認知的な側面、メタ認知的な側面が弱いと喝破し、教科の専門性の重要性に言及しています(直接的にそういう言い方はしていませんが)。基本的なグループワークで満足してしまうことけっこう多いなあ。

しかし、学ぶことに没頭するって、プロセスだけじゃなくてコンテンツ(学びの対象)そのものの魅力が圧倒的に重要。前者でオールオッケーと考えないようにしたい。先生の大切な役割の一つはここにあると思います。プロセスのデザインだけを学んでいるだけではやっぱり残念。

 

個別学習では、メタ認知と自己調整に言及されています。

「すべての子どもは学ぶことができる」という言い回しを、私たちは何千回も聞いたことがあります。実のところ、この格言は個別学習を推し進めるための部分的な説明でしかありません。もちろん、すべての生徒は潜在的に学ぶ力をもっています。でも、学ぶ能力についてはどうでしょうか?能力はスキルの上に築かれるものです。生徒は自分自身の思考をどのように考えたらいいのか(メタ認知)や、学んだことについてどのように行動したらいいのか(自己調整)についても教えられる必要があります。(pp178-179)

これ、本当に重要な指摘。持っている潜在的な力を発揮するには、スキルとそれを伸ばすサポートが必要なのですよね。これがない丸投げは、成長のチャンスを失うことになっているということは声を大きくして言っておきたいなあ。

 

この本を教師のガイドとすれば、ライティング・ワークショップ、リーディング・ワークショップ、PBL、Differentiated instruction等々、ワークショップの学び、学習者中心の学びにおける先生の役割が整理されるのではないでしょうか。

個人的には宿題についての論考もおもしろかったなー。

ちなみに、盟友、甲斐﨑博史の実践もどこかに隠されています。甲斐﨑を捜せ。

 

と言うわけでオススメです。「吉田新一郎訳の本にはずれなし!」という伝説は今回も裏切りませんでした。

冬休みのお供に是非。この本で「ブッククラブ」だけではなく、この本をガイドに「実際のプラン」を協同でつくって、実践→持ち寄り、というのがオススメの使い方です。

この本、「理屈としてはわかる」。でも実践するのが難しい。即興性が求められるので身体に落とし込むことが大事になります。ということは、自身の実践を繰り返し協同で省察することが大事だなあと思うわけです。 

 

蛇足ですが冬休みに入って読んだ本。

ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた (集英社新書)

ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた (集英社新書)

 

★★★★

『君たちはどう生きるか』の現代版と言うべき本。おもしろかった。1日で読み終えました。

身体知性 医師が見つけた身体と感情の深いつながり (朝日選書)

身体知性 医師が見つけた身体と感情の深いつながり (朝日選書)

 

★★★★★

これは絶対読んだ方がいいです。

西洋医学は,分析に基づく論理的推論に最も価値をおいています。しかし、臨床現場はそれだけで太刀打ちできるものではなく、医師の身体感覚的判断(近道思考)に頼らざるを得ないところがあります。近道思考は、論理的に組み立てられたものではないので、若い医師に対して体系的に教えることができません。また、生身の人間としての医師のの身体(医師個人の、職業上、生活上の歴史、さらに身体経由で形成される感情)を通して生み出される意志決定プロセスなので、いくつかの要素ー肉体的・精神的疲労や、感情の揺れ動きーによってバイアスがかかる可能性があります。西洋医学の医師は科学的分析に基づく整合性の隙間を、自分の生身の身体という不安定なもので埋めています。 p71

しかし、

 

医師は、不確定要素の多い問題に対して、西洋医学の基盤である分析的知識と過去の経験をベースにして、即座には論理的に説明できないような臨床判断を、自分の身体を介して行います。これは知識や経験をもとに、「帰納的な身体感覚」とでも呼べるようなものを用いて行われるものです。医療において近道思考を取り巻く問題は、医師が行う判断までの過程や精度に個人差が大きくなりすぎていることです。p72

 と言う指摘は教師にもそのまま当てはまる。ではどうすればよいか?ぜひ読んでみてください。

セトウツミ 1 (少年チャンピオン・コミックス)

セトウツミ 1 (少年チャンピオン・コミックス)

 

 同僚渡辺さんに紹介されて全8巻を読了。これはすごい。今年ナンバー1。特に7,8巻はやばい(語彙が不足)。

 

ナラティヴ・アプローチ

ナラティヴ・アプローチ

 
物語としてのケア―ナラティヴ・アプローチの世界へ (シリーズ ケアをひらく)

物語としてのケア―ナラティヴ・アプローチの世界へ (シリーズ ケアをひらく)

 

 研究用に。分かりやすかった。教師教育ではこれから大事になってくる。

 

というわけでよい冬休みを!