いわせんの仕事部屋

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学級づくりを考えるシリーズ。関係性のつなぎなおし。

若い先生から、学級経営について相談を受けました。子どもの関係が固定化して、小グループごとに対立している、と。
個人的に返信しようかとも思ったのですが、もしかしたら他にも同じような悩みを抱えている人もいるかも、と思い、せっかくなのでここにまとめて返信とします。

 

アメリカの経営学者、チェスター・バーナードは組織を成立させる3要素として3つあげました。この3つが円滑だと組織はうまくいき、一つでも欠けると組織がうまくいかない。その3つはなんだと思いますか?

学級もそうだし、スポーツチームもそうだし、職員室もそう。どの組織にも共通する大事な要素が3つあるそうなんですよね。
この3要素は、自分の学級を分析する時の視点にもなりますし、職員室がうまくいってるかなを測る視点にもなるし、スポーツチームがうまくいってるかな、を眺める視点にもなります。

単語で3つ。ちょこっとメモしてみてください。


バーナードはこの3つをあげています。

・共通目的(ゴールやビジョン)

・貢献意欲

・コミュニケーション

1つ目は共通目的。ビジョンやゴールと言い換えることもできそうです。これがあるから組織として集うわけです。私たちの組織は何を目指しているのか。私たちの組織にはどんな社会的意義があるのか。その目的は「わたし」とどうつながっているのか。

2つ目は、貢献意欲。この組織がよりよくなるために貢献したいとか、このチームが目指してる共通目的に向かえるように貢献したいという貢献意欲がそれぞれのメンバーにあるかどうか、です。

3つ目はコミュニケーション。その組織の中でコミュニケーションの豊かさはどうか。コミュニケーションの質が高いかどうかで、その組織が良い組織がどうかがわかるですって。言われてみればその通りですよね。対話的な関係が築かれてる組織はやっぱりよい組織。言いたいことが言い合える、何を言っても大丈夫を思える心理的安全性はこのコミュニケーションの質にかかっています。

この三つで組織がうまくいってるかとか、良い方向に進んでるかを分析することができるようです。共通目的がみんなで共有されていて、そこに対する貢献意欲がそれぞれのメンバーの中にあり、そのメンバー間のコミュニケーションが豊かであるかどうか。


その視点で教室をもう一度眺めてみましょう(ついでに職員室も・・・・)。

 

ちょっと古いですが、ラグビー日本代表はまさにこの3要素の質が高そうに見えました。明確な共通目的があって、それぞれのそこへの貢献意欲ものすごく高く献身的で、しかもコミュニケーションがめちゃくちゃ豊かなんですよね。
教室もこの視点で見ることができます。自分のクラスは共通目的あるけど、そこへの貢献意欲はないな・・・この目的そもそも担任の目標になってるだけかも…とか、コミュニケーションは結構してるけど、そもそもどんな学級になると素敵だとか、そこに自分はどういたいなどの共通目的がないなとか。職員室も同じように分析してみることができそうです(ああ耳が痛い)。

学級でもう少しわかりやすく翻訳してみましょう。

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まずはポジティブなコミュニケーションを増やす。貢献意欲のところは、お互いの成長に貢献しあったり、学びあったり、助けあったりする関係性を育んでいこうということ。三つ目は共通目的。こんな学級になるといいよね。こんなコミュニティになるといいよねっていうイメージを当事者である子どもと一緒に共有するということ。この三つが学級を考えていく上で、この視点があると見えてくることがあると思います。
図にするとこんな感じですよね。共通目的があり、そこへの個々の貢献意欲が高く、そこの間のコミュニケーションはとても豊かであるということ。
それを支える、一緒に進んでいく人が、先生と言われる人の役割っていうふうに、僕は考えています。
じゃあ、そのために、具体的な一歩目、どこからいったらいいのか。共通目的からスタートしたらいいのか。貢献意欲を育てるところからスタートしたほうがいいのか。コミュニケーション豊かにするところからスタートしたほうがいいのか。

どこからスタートするのがいいと思いますか?

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組織論から考える ワークショップデザイン

組織論から考える ワークショップデザイン

  • 作者:北野 清晃
  • 発売日: 2016/07/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

まず手を付けるべきは、コミュニケーションの量を増やすことです。豊かなコミュニケーションが成立してない学級は、目的を共有することも、そこへの貢献意欲を育むこともできません。

組織づくりの第一歩は、ポジティブなコミュニケーションの圧倒的な量を増やすことです。それは休み時間だけでは無理なので、日々の授業の中でも圧倒的にコミュニケーションの量を増やすことが学級づくりの第一歩になります。

量がたまるとどこかのタイミングで質的な変化が起きます(量質転化の法則)。そのためには、まずは量です。
僕ら教員って最初から質を求めてしまいがちです。
しかし、いきなり学級目標を!とか、いじめはいけません!の話なんて重い。
本音を言えるわけがありません。たくさんのコミュニケーションが貯まってからこそ、少しずつそういう深い話もできるようになっていくのです。

これは大人で考えるとわかりやすい。初めて出会った人に人生の悩み相談とか絶対できない。「最初はどんな食べ物好き?」とか、「そんな映画好きなんだ。俺と同じだ」みたいな話を積み重ねていく中で、「実はさ」って話が少しずつできるようになっていく。
蛇足ですが、それは保護者との関係もそうです。一番最初に保護者と話をするのが子どものトラブルのときだと、仲良くなるの難しいですよね。でも日常的にたくさんのポジティブなコミュニケーションを取っておくと、「実はこんなトラブルがあったんです」「先生、大丈夫ですよ。それぐらいお互い様ですよね」と言えるような関係性ができる。まずは量を増やすということです。

では量を増やすためにどうすればよいか?

まずは関係性がまざるきっかけをつくることです。専門的にはリワイヤリングと言います。関係性のつなぎ直しです。

子どもの人間関係は(大人もそうですけど)、実はものすごく固定化されています。
登校したら、仲良しの数人とおしゃべり。授業中は黙って聞いている。休み時間のトイレもその数人と一緒に。授業中また黙っている。休み時間はそのメンバーで遊ぶ。給食のときだけグループにして、他の子ともちょっとしゃべる。今はその時間すらない。掃除は黙ってやる。放課後その友だちと遊ぶ。結局、数人の人としかコミュニケーションをとっていない、ということが往々にして起こっています。
教室のコミュニケーションは、このように小グループのクラスター化しているんですね。偏っているのです。
そこを自分で超えていくのは、年齢が上がれば上がるほどリスクが高い。関係性を編みかえてくことになるので、もしかしたら友達に何か言われるかも・・・と不安になる。それを突破していくのって結構大変です。
僕らは、どんどんいろんな人と関係広げようねって気楽に言うけど、今の関係が壊れるかもしれない。関係広げるのってものすごく大変。大人だってそうです。

職員室で、わざわざ他の学年のところに行って、あまり話したことのない同僚とおしゃべりに、なんてあまりしないのが一般的です。やっぱり不安だから、リスクだから行かない。普段よくコミュニケーションとる人に固まっていくのは、人の習性です。

人間関係の広がりは自然発生しにくい。そう思っておいてよいと思います。本当は自然発生していくといいなと思いますが、最初は難しい。
ですからリワイヤリング(繋ぎなおし)のきっかけをつくるのは、担任の大切な役割なのです。いろいろな関係でたくさんかかわってみる。うっかり関わってみたら「けっこう悪くなかったぞ」「意外とたのしかったぞ」という経験が、人とのコミュニケーションのハードルをちょっとずつ下げていきます。ですからポジティブな経験の中でいっぱい混ざるって経験を用意しましょう。

ゴールイメージとしては、もし4月に学級が始まったとすると、それぞれの子が、1ヶ月後に教室を見回したら、「あれ?きづいたら全員としゃべったことあるな」とか、「全員となんか一緒にやったことあるわ」って思えると、よく混ざったなって感じです。

「混ざりましょう」って言っても混ざらないので、うっかり楽しいことで混ざっちゃったという経験ができる機会を毎日たくさん用意しましょう。プロジェクトアドベンチャーに代表されるアクティビティの引き出しを持っているといいなと思います。

席替えも大事ですよね。今担任に戻ったら、毎日席替えして、やがてフリーアドレスにするかも!

iwasen.hatenablog.com

 

教育心理学者の鹿毛さんは学級の「空気」について、

教室や学校が持つ「空気」は、それぞれに固有の文化や風土を背景として、その場に存在するメンバーの振る舞いを規定し彼らの状態レベルの動機づけに影響を及ぼすことになる。もちろん場に特有な文化や雰囲気は固定的なものではない。それらは、場とメンバーによる現在進行形の相互作用を通してダイナミックに創出されていく。 (鹿毛 2013)

と述べています。ではどうすればよいでしょうか?

日常的なコミュニケーションと相互に関わりあう心地よい体験の積み重ねによって相互理解が深まるとともに信頼感が互いに構築されることによって、自分の存在が受け入れられているという感覚が促され、その場が当人にとっての「居場所」となる。     (鹿毛 2013)

学習意欲の理論: 動機づけの教育心理学

学習意欲の理論: 動機づけの教育心理学

 

 

ここで大切なのは、日常的なコミュニケーションと相互に関わりあう心地よい体験の積み重ね」です。先生が説教したから、語ったから、信頼感が育まれるわけではなく、そこにいるメンバー同士が、心地よいコミュニケーションの積み重ねをすることが重要です。

「より多くの人と心地よいコミュニケーションをとる機会のデザイン」、だからこそ関係のつなぎ直しが必要なのです。

 

一番ステキだと思うのは、「たっぷり遊ぶ経験が日常にあること」なんですけどね。


いつかに続く。

教員として30歳になるまでに。

教員になって30歳になるまでの8年間(人による)をどう過ごすかは本当に大事だと思う(サンプル数1)。
ぼくは、これまでの本に書いてきたことでもあるけれど、戦後の民間教育運動の残り香の中 の中で過ごした。


学生時代に野外教育と総合学習に出会い、伊那小に何度も何度も通った。高島小、奈良女、神戸大附属明石、緒川小、いいものにたくさんふれ、たくさんの実践記録、ビデオを見る機会に恵まれた。キャンプリーダーをやり、環境教育に出会い、野外教育に没頭した。
教員になって「クラスで牛を飼えない!」ことに気づき、気がつくと手元に何もなく。クラスがガチャガチャになり、救いを求めて毎週のように通った。
法則化にも手を出し「何!本当にこの指示で子どもがゴミをたくさん拾うぞ!うひひ」と悦に入ったりしていた。


なんか違うと思いつつ、偶然紀伊國屋書店で出会ったのが『たのしい授業』という一風変わった小さな雑誌。仮説実験授業だった。雑誌にあったサークル紹介を頼りに3つのサークルに押しかけ、毎回資料を持って行って学ぶこと5年(月3回ペースで資料を持って行っていた)。


この5年で、先人や先行実践から学ぶこと、先輩から学ぶこと、本を読むこと、子どもにきくこと、実践記録を書くこと、をたっぷり体験的に学んだ。
全20時間の授業を全てカセットテープ(時代・・・)にとり、全部テープ起こしをして「授業通信」として子どもに配り、サークルにも持っていった。とにかく記録を全て取ること、それをそのまま共有してまな板の鯉になることを学んだ。
仮説実験授業からは死ぬほど学んだああと、緩やかに離れたけれど、この経験は自分の核になっている。


初任の時、今は亡き大阪よみかたの会の山本正次さんに国語の相談をしているときに、「岩瀬さんなりの読み方のプランをつくればいいんですよ。楽しみにしていますよ」と懇親会で言われたことが、RW、WWに向かっていくときの原点になった。本当は答えが欲しくて聞いた。なのにその答えだったところがありがたい。
その価値は35を過ぎてから実感できた。


山本さん、ぼくなりに実践して発信してみました。ぜひフィードバックいただきたかった。
水道方式、徳島の新居信正さんに「上を向いて歩くのは坂本九だけでいい。我々は子どもに向かって歩くのだ」と言われて痺れた体験。今もなお自分の芯になっている。
新居さん、風越で新たなチャレンジをします。見たら小言をたくさん言われそう。
板倉聖宣さんに「蓄積に学びなさい」と言われた。本当そう。自分がやりたいことなんて、大抵先人がやっている。どこまでぼくは学べただろうか。


自信満々に実践を持っていくと、
「で、一人ひとりの子どもはそれにどう言ってるの?」と仮説実験授業の実践家、田辺守男さんに突っ込まれた。盛った実践はすぐバレた。
「鹿の角折」を何度も何度もやられた。
幸せだったな。


そういえば教員初期は園田雅春実践にも大きな影響を受けた。明治図書、いい実践本出していたよなー。畳とかは彼の影響。


仮説実験授業から離れた後は、フレネ教育、木幡寛、斉藤孝、工藤順一との「BASIC」というサークルでこれまためちゃめちゃ鍛えられた。とにかく勉強し実践するを繰り返すしかなかった。
ぼくは、戦後の民間教育に鍛えられた最後の世代かもしれない。
何度も何度も、自分の角を折られる体験をした。
斉藤孝はその後、『声に出して読みたい日本語』がヒットした。
その後吉田新一郎に出会い世界がかわる。2人だけのメーリングリストは1000を超え、死ぬほど実践記録を書き、一緒に出版するようになった。


今思えば幸せだった。当時は辛かったけれど。先人に今もなおたどり着けていないなあと途方にくれる。でも追いかけたい背中があることは幸せなことだ。
今の民間の学びの場やSNSを中心とした教師の学びに、めちゃめちゃ危機を覚えるのは、すっかり自分がおじさんになったということなんだよな。
鍛えられるが死語になった。受け入れられるコミュニティを探し、なければ作る時代になった。ググれば出会える、Twitterやインスタに流れてくる。その質は問われない。
短くつぶやくその実践が、その言葉が、なんだか「優れた実践家」に見えるようになってきた。


その中でも自分を鍛えようとしている人たちがいる。
それにぼくらは応えられていない。
まずは死ぬほど先人に学ぶといいよと思うわけだ。
修行なくして先に行けないと思うわけだ。
対話すればオールOK、振り返ればオールOK、発信すればオールOK、ということはない。


教職大学院に来るというのは、ある意味、「鍛えられる」を実感できる、先人に学ぶということを体感できる場でああった。論文読むとか当たり前になるしね。とはいえ、現場との乖離は激しいし、授業や教員による質のばらつきは正直半端ない。それでもって僕としては、新しい学校づくりに全力を注ぎつつ、校長ビギナーを満喫しつつ。引き続き教師教育に関心を持ちつつ、小学校現場→大学教員→幼稚園・義務教育学校の校長、園長と、なんとも素敵な順番で経験していることを、どう還元していこうかと思ったり思わなかったり、ラジバンダリ。
もう50だしなと思いつつ、

 

とはいえもっとあたらしい世界も見たいし。
まだまだ先の世界はありそうだし。昨日また面白いこと着想しちゃったし。
遺言のつもりで書いたけど、やっぱりもっと進もう。

というわけでブログ復活。

最近買った本読んだ本memo。

最近買った本、読んだ本のメモ。

生きる はたらく つくる

生きる はたらく つくる

  • 作者:皆川 明
  • 発売日: 2020/06/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
Hello!! Work 僕らの仕事のつくりかた、つづきかた。

Hello!! Work 僕らの仕事のつくりかた、つづきかた。

 

★★★★★

立て続けに読んだ2冊。いやあすごくよかった。とくにHello!!workはいまのぼくにドンピシャだった。

 

★★★

2時間もあると読めます。AIに仕事を奪われる!と大騒ぎしなくて済む本。現状がよくわかります。

 

学力格差を克服する (ちくま新書)

学力格差を克服する (ちくま新書)

  • 作者:志水宏吉
  • 発売日: 2020/08/21
  • メディア: Kindle版
 

★★★

志水さんの本を読んだことがある人は読まなくて良いかも。これまでのレビュー的な本なので、初めて読む人にはオススメです。

 

★★★★

新書ばっかりだな。サラッと読めますが、今よんでおくべき本。「世間」とは何かに敏感になろう。

 

★★★★

高い!高すぎる!でもその価値がある。手元に置いておいて辞書的に使う本ですね。

えいやと読もうと思っていたら、とんでもない本が届いた。

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独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法

独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法

  • 作者:読書猿
  • 発売日: 2020/09/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

★★★★★★

これ、とんでもない本だ。読むしかないが事典だ。これで二千八百円は安すぎる。風越の中学生にはおすすめかも。

こういう本大好き。

 

読書していると、自分のバランスが取れていくな。

さて読もう。

 

 

 

 

なんと9刷

ぼくの初の単著本、『クラスづくりの極意』、なんと9刷の連絡が来ました。

 

クラスづくりの極意―ぼくら、先生なしでも大丈夫だよ

クラスづくりの極意―ぼくら、先生なしでも大丈夫だよ

 

 もう10年近く読み継がれていることに心から感謝です。

 

今読み返すと「若いなー!」と思うこともしばしばですが、

エネルギーほとばしっていて、我ながら「いいぞいいぞ」と思います。

ぼくの原点の本です。

よかったら手に取ってみてくださいね。

 

写真もたくさん載ってます。

なんと中川綾さん作のチームゲーム「てがみち」が綴じ込み付録でついているという実は豪華な本です。

 

iwasen.hatenablog.com

 

 

マイナー出版社なので本屋でめったに見ないのですが、まさか10年も読まれるなんて思ってもいなかった。

 

編集者の伊藤伸介さん、妥協のない人で、何度も教室を見に来たり、原稿も何度も何度も書き直させられたり、人に読まれる文章を書き始めたばかりの僕を思いっきり鍛えてくれました。人に読まれるってどういうことかを教えてくれました。

その出会いがなかったら今はない。

 

汎用的能力とは?(メモ)

この本がおもしろい。

 特に5章が刺激的。

教科は手段と喝破する。でもこの章だけ読んでいてもよくわからない。

いいタイミングで、こんな論文の紹介がツイッターで流れてきた。

京大、松下佳代さんの「汎用的能力を再考する -- 汎用性の4つのタイプとミネルヴァ・モデル」だ。

repository.kulib.kyoto-u.ac.jp

 

今は非認知能力等を中心に、汎用的能力があるということを前提に語られているが、それって本当なのだろうか?文脈に依存しない、いつでもどこでも発揮される汎用能力ってあるのか?数学が得意な人は、どんな場面でも論理的思考を発揮するのだろうか?

 

松下は、汎用能力を以下の4つに分類した。

①分野固有性に依らない汎用性:
 分野を越えた幅広い応用可能性としての汎用性
②分野固有性を捨象した汎用性:
分野固有性があるはずのものを捨象して得られる見かけの汎用性
③分野固有性に根ざした汎用性:
特定の分野で獲得・育成された知識・能力が分野を越えて適用・拡張されることで得られる汎用性
④メタ分野的な汎用性:
各分野に固有の知識・能力の特徴をふまえつつ、それを俯瞰・融合することで得られる汎用性

 汎用的能力の教育(①)の先端事例としてミネルヴァ大学のカリキュラムの特徴が明らかにされていて、この種の議論をすっきりまとめてくれている。

PBLや評価、非認知能力に関心がある人、実践している人は必読です。

このようなミネルヴァの取組は、これまで日本でぼんやりと「汎用的能力」(あるいは「汎用的技能」「ジェネリックスキル」)と称されてきたものについて、細かい粒度で具体化し、その習得・活用に必要な条件とプロセスをくっきりと描き出した点で、意義がある。また、カリキュラムマップとは異なる方法で、プログラムの学習成果を各科目の学習成果と結びつけ、評価する方法を示した点も参考になる。さらに本稿では検討できなかったが、オンライン授業の方法も学習者によっては有効だろう。

 

この論文を読んでから、先の本の5章に戻ると、理解度が全然変わってくる。

メモとして。

振り返りジャーナルを始めよう

学校現場で口頭での対話やコミュニケーションが難しい状況だからこそ、振り返りジャーナルのようなコミュニケーションのチャンネルが大切です。
2学期ぜひ。あるとないのとでは全然ちがいますよ。

 

はじめに

ある年の5年生。グループ間で競争するアクティビティを行った後に書いた、振り返りジャーナルを紹介します。テーマは「リーダーって何だろう?」です。


リーダーシップってしきるんじゃなく、話すことでもなく、ちゃんとみんなの意見を公平に聞いてまとめる役、だと思います。今日一番高く積んだチームは、いつも意見をよく聞いている人たち(あんまり話をしない人たち)がけっこういたから、あのチームはちゃんとみんなの意見を聞いていて、みんな公平だったんだと思う。自分にはどんなリーダーシップがあるだろう。 いつも○○ちゃんたちはこんな気持ちだったんだ…ってことがわかった。


 リーダーシップって「引っぱること」って思いがち。でも自身の体験を振り返る中で「きくことのリーダーシップ」に気づき始めているのがわかります。
振り返りジャーナル(以下「ジャーナル」)は、その名の通り、毎日の振り返りを習慣化するノートです。
そのままでは忘れてしまう毎日の出来事を1日の最後に丁寧に振り返り、自分の成長を記録します。 行事に限らず、授業でできるようになったことや友だちとのトラブルで感じたこと、日々の学校生活すべてが子ども達の成長の種です。しかし体験したことはあっという間に忘れてしまいます。これらをジャーナルに記録すると、後から読み返したときに自分や他者、コミュニティの成長を自分自身でたどることができるのです。先のジャーナルも振り返って言語化したからこそ、その人の「学び」として残っているのですよね。

●なぜ書き残すの?
 ジャーナルを書く間、子どもたちはシーンとした集中した空気を作ります。カリカリカリ…鉛筆の音だけが静かに響く教室で、子どもたちは自分との対話を深めながら振り返りを進めます。
 その日の思考や心の動きを書き出すプロセスを通じて、子どもたちは自分の体験を一旦、整理して、自分の中から外に出します。書くことで「文章化された自分の体験」を、まるで読者のような気分で、客観的に眺めることが可能になるのです。
 ペラペラとジャーナルをめくって「1週間前の自分」と比べてみると「あのときはこう考えていたけれど、今は違うな」といった具合に、自分の思考や行動の変容、そこにある成長を知ることができます。メタに眺めるからこそ、次に生かせることが整理され、振り返りのサイクルが生まれるのです。1年が終わって改めてジャーナルを読むと、自分や友達、クラスの成長がはっきりとわかります。自分で成長を確かめる時間はなんとも幸せな時間です。

新学習指導要領でも「自らの学習活動を振り返って次の学びにつなげるという深い学習のプロセス」 が重視されていますが、そこでも振り返りジャーナルで育まれる力が役立つはずです。

 

●「振り返りジャーナル」を始めよう!
具体的な導入方法を紹介します。誌面の都合で概略の紹介ですので、詳しくは拙著、『「振り返りジャーナル」で子どもとつながるクラス運営』(ナツメ社)をご覧ください。始めるのに必要なのは、クラスの人数分のノートだけです。B5判の大学ノートを横半分に切って使います。

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低学年も同じノートでスタートし、最初は、罫線2行分で1文字分を目安にします。慣れてくると小学1〜2年生も横罫1行にびっしりと書きます。毎日以下の手順で進めます。
①基本は帰りの会に取り組みます。
②黒板に今日のテーマを書きます。
③子ども達は振り返りジャーナルを書きます。
④書き終わったら、前に座っている先生に提出します。
⑤先生はサその場でサッと読んで、簡単なフィードバックをします。

以下、実践で大切にしたいことを整理していきます。

・毎日、帰りの会で5〜10分!
 振り返りジャーナルを書く時間は5〜10分が基本です。B5ノート半ページの分量は、1日分を5分で振り返って書くのにちょうどいいサイズサイズです。最初の2週間は、書くことに慣れるためにも余裕を見て10−15分とりましょう。1日に1ページ書ききるのを目標にします。

・毎日、書くことを徹底しよう 
 何よりも、まず大切にしたいのは「毎日書く」ことです。
 振り返りジャーナルの目的は、「振り返り」の習慣化です。そのためには当たり前すが「続ける」のが一番です。優先順位をあげて時間確保に努めます。続けているうちに、子どもたちが振り返り慣れてきます。とにかく続けましょう。

・ 最初はポジティブなテーマで
 残念な「反省日記」にしないことが大切。最初はポジティブなテーマからスタートしましょう。振り返ることが楽しい!という体験を積み重ねます。ポジティブなコミュニケーションが一定量貯まると、うまくいかなかったこと、辛かったこと等の深い振り返りもできるようになります。「今日の○○大成功!その時どんな気持ちだった?」「私の好きなこと、実は○○なんです」「こんなクラスにしたい!」「今日の算数で私ががんばったことを紹介します」「この土日どんなことが楽しかった?」等々。他のテーマ例は拙著を参照してくださいね。
 
・フィードバックは40人で20分!
忙しい業務の中で、フィードバックを書く時間の確保は難しいものです。ぼくらは他にも教材研究や会議、事務仕事など山のように仕事を抱えています。 無理なく、毎日、続けるために、フィードバックにかける時間は40人を20分と決めてチャレンジしましょう。

・共感のコメントを2カ所程度。
 ジャーナルにフィードバックを書くときは、子どもたちの書いた文章に赤ペンでアンダーラインを引き、コメントがある場合はその横などに一言書き込みます。コメントの内容は、先生の意見ではなく、相づちのようなもの。先生が「うんうん、なるほどなるほど!」と、子どもの話を聞いている姿を想像すると、イメージしやすいでしょう。先生が子どもの毎日を励まし、応援していると子どもが感じるコメントにしましょう。よく使う言葉は、「うんうん」「ナルホド」「OK!OK!」「ありがとう」「スゴイ!」「感動!」「大丈夫」「そっかあ」「一緒に考えてこう」「了解」「へえ〜」「あらら」「そっかあ」「は〜い!」「応援!」などです。

 

・長く書きたくなる時は直接の対話で。
 とはいえ、内容によっては返事を長く書きたくなることもあります。そんな時は、次の日の直接の対話の機会につなげます。「昨日〜って書いてあったから気になってさー」「昨日のジャーナル読んだよ。いやあすごい気づきだなと思って〜」。振り返りジャーナルの中ですべてを解決しようとしないようにします。日々の子どもとの関係性を深めていくことに生かしていきます。


●先生を成長させてくれる
学校教員時代、一番の楽しみは、放課後にコーヒーを飲みながらジャーナルを読んでコメントを書く時間でした。一人ひとりの成長に思いを馳せ、自分自身の実践も振り返る時間。この時間が、先生としてのぼくを成長させてくれました。拙稿を読み、やってみよう!と思ってくださった方々にとって、振り返りジャーナルが子どもの成長、そしてぼくら教員の成長に寄り添ってくれるものになったら嬉しい限りです。

 

振り返りジャーナルについては以下の記事も参考にして下さい。

 

iwasen.hatenablog.com

iwasen.hatenablog.com

iwasen.hatenablog.com