いわせんの仕事部屋

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小金井三小で話したこと①

小金井市立小金井第三小学校の研究発表会が終わりました。

いやあ、ステキな研究発表会でした。

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500人近い参会者でした。その中で公開授業を行った5年生。石川晋さんが書かれているように、子どもの思考の強さに驚きました。

横に座っていた大熊教育長も、全く同じことをおっしゃっていました。

「この子どもの思考の深まりに気づいている人はどれくらいいるのだろう」と。

suponjinokokoro.hatenadiary.jp

 

校長先生のサーバントリーダーシップのもと、教職員の自由な試行錯誤が保証されていた2年間。支えるリーダーの存在は本当に大事。

子どもの学びと共に、大人の学び(職員室での学び)を大切にしてきた小金井三小。

ぼくは毎回の研究授業の度におじゃまして、授業へのフィードバックや研修のお手伝いをしてきました。

いったい、この学校では何が起きていたのでしょうか。研究発表会の講演で話してことをダイジェストでまとめてみます。

 

小金井三小では、信頼ベースの学級づくりがテーマでした。学級という組織を考える時に、バーナードの論を参考にして考えてみます。

バーナードは組織の3要素として、以下の3つをあげています。

・共通目的(ゴールやビジョン)

・貢献意欲

・コミュニケーション

これを学級づくりに強引に翻訳すると、

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こんな感じでしょうか。図にするとこんな感じ。

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(北野さんの図を参考にして岩瀬作成)

組織論から考える ワークショップデザイン

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 これって、学級だけに言えることなのでしょうか?

実は職員室も組織。となると、同じように3要素で考えることができそう。

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小金井三小を図にするとこんな感じ。

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こう描いてみたものの、管理職、研究主任も教職員のコミュニケーションの輪の中で協同探究していたなあと思います。そう思うと、図が違ってくるな。

というわけで、

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というような話を、小金井三小の研究がはじまったとき平成29年の5月にしました。

校長先生、研究主任、研究副主任との相談の上、信頼ベースの学級づくりの校内研究をす進めると同時に、学び合う職員室を創っていきましょう!という提案にしたのです。

 

教員が学校内で学び、成長する機会をどうデザインするか、ということは重要なテーマです。校内研究がその大きな役割を果たす「はず」なのですが、「校内研究」「校内研修」と聞くだけで「ああ…」とため息が出る人も多いはず(若い頃のぼく)。

木原(2010)は、校内研修には企画・運営に関わる 5つの問題点があると指摘しています。

1.機会が限定されている
2.個々の教師の問題意識を反映させがたい
3.型はめに陥りやすい
4.閉鎖性・保守性が強い
5.適切なリーダーシップが発揮されない

ひとつひとつの項目をみると、思い当たることも多いのではないでしょうか。研究の成果を「型」の創出に求める考え方が強く、また「仮説検証型」という名の、最初から落としどころが決まっているものもよく見受けられます。

(「子どもの主体性が発揮される授業が展開されれば学習意欲は高まるだろう」的な・・・そりゃそうでしょ的な・・・・ほんと多い。)

また、日本の主に公立校における校内研究は、その「内容」、つまりどの教科領域を対象にするか、どのような授業を目指すかなどに終始してしまいがちでした。
体育の得意な方が校長になると「校内研究は体育でいくぞ!」というわけです……

 その一方、研究組織はどのように組織すべきか、研究はどう進めていくのがよいのか等、組織の形態やプロセスのデザインへの意識は弱かったといえるでしょう。
今津(2001)は、学校研究における「組織の形態」への意識の弱さを指摘した上で、

日本では教師相互の関係性が緊密であることが前提とされていたために、「形態」へと研究関心が向かわなかったせいであろうと述べています。

 かつての学校では、同僚性がある程度機能していたので、若手教師は学校文化に参入することで同僚との関係性の中で学ぶことができていたと言えそうです。ぼくの若い頃はギリギリそうだったなあ。教育実習の時は職員室でお酒を飲むがまだ許されていた時代。

しかし、年齢構成の変化、多忙化の中で、その同僚性も機能しにくくなってきています。 また今津は、今までの日本の一般的な教師集団を「共同文化」すなわち、同質同調性が原則であり、個々の自己主張や競争よりも、組織メンバー全員の強調や同調を重視してきたといいます。つまり、まずはじめに「共同」ありきで画一性へと拘束し、各教師の個性や自律性の優先順位が低かったということです。この文化が木原の指摘している問題点とつながっていそうです。

教師が勤務時間内に学び合う時間はほとんど取れていないのが現状です。その限られた時間を従来の授業研究だけでは、とってももったいない!、とぼくは思います。「研究授業」という言葉を聞くだけで「ああ…」と気持ちが沈む人が少なからずいる現状。研究授業や授業研究自体が悪いのではなく、そこへ至るプロセス設計のミス、組織における学びの場としてのデザインの失敗があるとぼくは考えています。

ではこれからの校内研究はどこへ向かっていけばいいのか?

そんな未知のデザインへのチャレジ。それが小金井三小のチャレンジだったのです。

内容ではなく形態に焦点を当てる、つまり校内研究で、学校に「協働文化」を構築するチャレンジでした。

(今津によれば、協働文化とは、
「各教師のユニークなアイディアや実践を尊重しつつも、相互の連携を深めて、各教師が成長発達して学校全体の教育実践の質を高め、生徒の学習を促進させる文化」であり、教師一人ひとりを尊重した相互連携を目指すべきだと主張しています。そうすると子どもたちや教師の利益となり、さらにその学校が持つ組織文化が専門的に高められるだろうというわけです。学校に協働文化を創出しようという試み、教師を同質同調性から解き放ち、自律した専門家への道を歩むための素地を組織的につくっていく。その上で相互に連携し個人も組織も高まっていく、そしてそれが子どもの利益となる。そのような協働文化が生まれれば、教師同士は互いにサポートしあい、同僚同士で学び合い、教え合う活動が生まれやすくなるのではないでしょうか。)

協働文化については以下のレポート参照。ぼくの若かりし頃の若々しいレポート。

『教師も学び合う「協働文化」を生み出す学校スタイル
~上越市立高志小学校を事例として~」』

 

             *  *  *

 

では具体的に、小金井三小はどんなアプローチをしてきたのでしょうか。

具体的には5つのアプローチに分類できます(もっといろいろあるけれど)。

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一つずつ見ていきましょう。

 

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なんといってもラウンドスタディの導入が大きかったです。

 

[Round Study]教師の学びをアクティブにする授業研究─授業力を磨く! アクティブ・ラーニング研修法

[Round Study]教師の学びをアクティブにする授業研究─授業力を磨く! アクティブ・ラーニング研修法

 

ラウンドスタディは、ワールドカフェの「形式」を応用した研修法。気楽なカフェ的な会話がベースになっています。10回以上取り組んできました。回数を重ねるにつれ、授業について気楽に話すことが文化となりました。いやあ毎回本当によく話してきました。

指導案の形式をA4で1枚のシンプルなものにすることで負担を軽減したり、検討会後、茶話会を開いてジュースとお菓子でおしゃべりしたり。

コミュニケーションの量が増えることで、質的変化も起きてきたのです。終わった後もホワイトボードを囲んで話が泊まらなかったり、放課後の職員室でインフォーマルに授業の話に花が咲いたり。

この繰り返しで、少しずつ職員室が居心地のよい空間へと変化してきたようです。

鹿毛さんは居心地のよい空間について以下のように述べています。

日常的なコミュニケーションと相互に関わりあう心地よい体験の積み重ねによって相互理解が深まるとともに信頼感が互いに構築されることによって、自分の存在が受け入れられているという感覚が促され、その場が当人にとっての「居場所」となる。   

学習意欲の理論: 動機づけの教育心理学

学習意欲の理論: 動機づけの教育心理学

 

 これは、教室も職員室も変わらないなあと思うわけです。

 

つづく。